『さべちん』SABE/掲載誌:COMIC快楽天他
わたしは数ある衣装の中でブルマが特に好きなわけではない。
さらに言うのならばブルマを媚びた描写でエロくあざとく絵にしたり映したりするのが好きではない。
でも、SABE先生の描くブルマだけは好きなのです。SABE先生の画にはわざとらしさが無いのにも関わらず十分すぎるほど拘りが感じられ、ブルマが持つ本来の魅力とエロスが満ちているのです。
そんな、ブルマフェチでもなんでもない自分にも理解出来るほどの最高のブルマを描けるブルマ絵師が、いなくなってしまった。
今年1月に急逝されたSABE先生の追悼本。生前から単行本収録希望の声が多かった子育て…というより子供観察漫画『ゆらさん日記』から「季刊GELATIN」掲載予定のはずが惜しくも設定画だけに終わってしまった『ゼラちん』のカットまで、単行本未収録の作品を数多く収録した怒涛の厚みを誇る一冊となりました。
SABE先生は4コマ作家…というわけではないはずなのですが収録されている大半は4コマ。『ふとんの王国』~『BEAUTIFUL MONEY』の淡々とした変態性と絶望が詰まった世界観はSABE先生にしか生み出すことが出来ないであろうもので、その希望のなさがいっそ清々しいほどです。極度のフェティシズムが表れたエロスと美しい女性キャラですら躊躇いなく殴られるようなバイオレンスが行き交う狂った世界のようでいて、理性や冷静さが完全には失われていないところが凄まじい。ギャグ漫画の筈なのに人間のドス暗い部分を確実に捉えてくる作風に時々笑うことを忘れてしまいそうになります。それなのに最後の最後で黒岩君と林田さんが幸せになることを期待してしまったわたしはSABE先生の漫画を読むにはまだ未熟するかもしれません。
またこの頃は新婚の頃の元・奥様との愛の日々(?)も綴られていますが、編集の都合なのかそれとも意図的なのか、離婚後を描いたイラストコラム『クラゲ試し割り』が間に挟まっているのがなんともシュール&カオス。これもワニマガジンなりの、SABE先生への歪んだ愛情なのでしょうか。
最大の見所とも言える『ゆらさん日記』は先程も書いた通り子育て漫画と呼ぶよりも観察漫画と書いたほうがしっくりきます。可愛い一人娘であり、未知なる生物でもある”ゆらさん”の奇抜な行動を描いた作品です。愛情だけではなく、どこかひねた大人の目線を通したこの路線は大ヒット作品『ママはテンパリスト』の10年ほど先を行っていたのではないかと思います。
この作品の凄いところはゆらさんは決して漫画的な美化をされずに描かれていて、尚且つそれでも十分に愛らしいというところです。SABE先生の鋭い観察眼と描写力が発揮された名作でもあり、後書きで元担当で現在ワニマガジンの社長である山崎氏が語られているように”一番幸せそうに輝いていた”時期の作品でもある『ゆらさん日記』がこうして単行本に収録されたことを感謝します。でも、本当は、こんな形で読みたくはなかった…。
同人誌、年賀状のカットやゆらさんが生まれたときのワニマガジン宛のFAXに到るまで、非常に細かな仕事や語録を集めてくれた編集には大変感謝をしていますが、快楽天誌上で最後に掲載された「エロ漫画」である『逃げろアイーシャ』が未掲載な点だけが残念でなりません。他にエロ漫画と呼べる作品がないからバランスを考えてのことなのでしょうか。最後まで読んだときにタイトルの意味が初めて解るという面白さも合わせて、SABE先生の抱く最高品質のブルマエロスがこれでもかというほど発揮された作品なので、正直綺麗にまとめようとしなくていいからきちんと収録してほしかった。
追悼本と銘打たれた作品集ではありますが涙無しには読めないとかそういうものではなく、SABE先生がこの世にもういない、そんなことが信じられなくなるくらいに濃密なSABEワールドが詰まった本でした。不思議だけど、読んでいるときは悲しいってことをふと忘れて笑えてしまう。それでいいんだと思う。
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