『バチバチ』佐藤タカヒロ/週刊少年チャンピオン連載中
今、チャンピオンを嗜む紳士淑女の間で注目度ナンバーワンと言ってもいい相撲漫画です。父・元大関の火竜が堕落し、この世を去ってから相撲を疎み続けてきた鮫島鯉太郎。しかし「自分は自分」として、鯉太郎の素質に惚れ込んだ空流親方の元で角界入りすることを決意します。
空流部屋に来て鯉太郎は初めて相撲の真の厳しさ、力士の強さを噛み締めることになります。長年一人で続けてきた稽古の成果は確実についているものの、それでも「本物の力士」との差は想像を絶するほどのもの。
そこに立って初めて鯉太郎は自分の弱さ…そしてやっといつしか憎さばかりで見えていなかった本当の”相撲”というもの自体を知ったのかもしれません。
強さでは到底敵わないことを思い知らされながらも負けん気だけは折れない鯉太郎。そんな生意気でどうしようもないヒネクレ小僧を空流部屋の兄弟子たちは厳しくも優しく受け入れます。
「そしてこれからここにいる人間は 友人であり ライバルであり 兄弟であり 親であり 家族だ」
思えば火竜を亡くしてから、鯉太郎は世話になったマコ姉たち一家には大層な恩義を感じながらもどこかよそよそしさを抱いていたように思えます。恩義と同時に遠慮があり、心の中でくすぶった想いをぶつける相手は庭の木しかいなかった。しかし空流親方や兄弟子たちはそんな鯉太郎を遠慮なく叩きのめすのと同時に心の壁をもぶち破ったかのようです。生意気さは変わらないけれど、徐々に空流部屋の温かさに触れて柔らかい笑顔を見せるようになる鯉太郎の変化に喜びを感じます。
これから鯉太郎のライバルになっていくであろう、火竜を角界から追放した元横綱・虎城の息子である「王虎」こと剣市との最悪な出逢いも描かれています。虎城に輪をかけたような偽善者ぶりと小賢しい言動は外道そのもので鯉太郎の感情を逆撫でします。剣市の言葉を発せずとも疑いようのない歪んだ笑顔や周囲のマスコミの描写の容赦の無さがまた逸品。ビリビリと伝わってくる研ぎ澄まされたような悪意から受け取る、読み手まで同調してしまう悔しさ。丁寧なのは相撲自体の描写だけではないです。
個人的に王虎以上に鯉太郎のライバルとなっていって欲しいと期待してしまうのが1巻で鯉太郎に敗北を喫した虎城部屋の力士・猛虎。一度素人である鯉太郎に敗れた者とはいえ芯が通っていて気品すら感じられる猛虎は、これから益々の強さを得ていくであろうと期待させる存在感です。主人公側や中心人物だけでなくひとりひとりの力士を強く描くことが、作品全体から感じられる「相撲の気高さ」に繋がっているのだと思うのです。
きっちりと笑いどころもあり、メリハリがある本当に面白い漫画です。売り上げ面だけがまだ不安ですが、こんな面白い漫画が評価されないなんていやだ…!どうかもっと多くの人に伝わっていきますように。未読の皆さんもぜひ、この面白さと熱さに触れてみてください。そして川口さんに魅了されるといいと思うよ!
過去エントリ
”土俵”という場所へ、自分自身を証明しに行く第一歩。 『バチバチ』1巻
他サイト様の1巻レビューまとめはこちらの記事をご参照ください。(クレイジーワールド様より)
2009年9月、ネットで話題になった漫画
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