『ムラマサ』哲弘/週刊少年チャンピオン連載
描き下ろしを含む最終巻が発売されて、とうとう『ムラマサ』という作品は完結してしまいました。もっとじっくり描いて欲しい部分も多かったので、無念の一言に尽きます。この作品、そして作者の哲弘先生は紳士淑女という名のチャンピオン愛読者からは確実な支持(当社比)を得ていたにも関わらず終盤は常に連載継続の危機が漂っており、とうとう5巻分で打ち切りという憂き目にあいました。


わたくし自身、哲弘先生はチャンピオンREDで連載されていた『ヤニーズ』の頃から存じています。またチャンピオンを購読する以前から『椿ナイトクラブ』は愛読しており、哲弘先生の進化と類い稀なる変態性(最大級の賛辞)を前々から感じていましたのでまさに『ムラマサ』は待望の新連載発表でした。
かつての作品よりもすっきりした線で描かれながらもバカさとエロスを忘れない作風に「やっぱり哲弘はんは最高や!」と思っていたのも束の間、意外な程物語はシリアスな方向に動き始めました。戸惑いを感じた読者も多かったのではないでしょうか。かく言う自分も若干戸惑いはありました。それはもう、シャレにならないほど重い部分も非常に多かったものですから。しかし作品全体のテーマが壮大な「愛」であったことを知り、不安や戸惑いを越えて一層『ムラマサ』がいとおしくなりました。


バカエロスから始まり、「えろひどい」という名言を生み、大人の不条理に屈せず少年少女が成長するという意味では実は真っ当な少年漫画の王道を行っていた『ムラマサ』。愛される要素は十分にあったものの、受け入れられ難い点もあったことは否めません。個人的な印象では先ほども触れた通りストーリー上に辛さを感じる描写も多かったことや、台詞(特にモノローグ)にわかりづらさを感じる点が挙げられます。
特に台詞のわかりづらさに関しては、慣れてしまえば哲弘先生独特の味わいが楽しめるところでもあるのですがそうでない読者にはとっつきにくい部分であったのではないか、と思います。実際のところ、自分も40周年企画の為に久し振りにチャンピオンを購入した友人からたこ焼きの回について、「あの漫画は何なんだ?」というツッコミを受けたことがあります。我々紳士淑女層には感動できる回だったたこ焼き回でも、第三者の目から見るとそうなのか、とショックを受けた記憶があります。そこで自分は、『ムラマサ』への評価の分かれ目を実感し少し落胆しました。


愛読者の自分が考えても問題と思える点はありますが、物語の結末は本当に素晴らしいものでした。面白かった漫画が最後に尻すぼみになってしまうケースは多々ありますが『ムラマサ』はその逆で、それまでにあった疑問点をすべて払拭してくれる最高の最終回だったと思います。
誰もが絶賛する漫画ではないのかもしれません。ですが少なからずこの作品によって楽しみを、愛情を、幸せを得た人たちは存在します。商業作品としては成功と言い難い結果であることは承知です。しかし哲弘先生が大いなる愛情を持ってこの作品を描いてくださったこと、多々あった危機を越えて素晴らしい最終回を描ききってくれたことには感謝の気持ちでいっぱいです。わたしはこの作品に出逢えたことと、この作品の完結を見届けられたことを幸せに思います。


お疲れ様でした哲弘先生。また次回作で!