『バチバチ』佐藤タカヒロ/週刊少年チャンピオン連載中
熱さも面白さもまったくとどまる様子がない『バチバチ』3巻です。そういえば少し前に、TVBros誌に作品レビューが載っていました(情報元:チャンピオンスレの紳士様)。徐々に注目度が上がっているのであればこんなに嬉しいことはないです。


3巻ではいよいよ鯉太郎が初土俵に立つ時がやってきます。が、先ずその前に目を見張るのは空流部屋の先輩力士たちのその堂々たる取組み。普段の稽古で見せる姿よりも、想像を遥かに超える強さに鯉太郎も圧倒され、知らずのうちにその拳を握っていました。ただ強いだけではなくて各々「自分の相撲」を貫いているところに痺れます。(川口さんのノールックけたぐりは必見!!)
こんな強い人たちが未だ未だ下の階級で闘っているのだから恐ろしい。吽形さんは怪我があったとはいえ…。また兄弟子の中でただ一人へっぽこ感漂わす白水さんの愛嬌…というか、その必死さもそれはそれでいとおしいんですよね。今はナイス解説役を勤めていますがいつかメインの話も見てみたい。
鯉太郎と王虎の一件以来マスコミに目を付けられている空流部屋ですがこの強靭な先輩たちが退くことはありません。相も変わらず好奇の目と無礼な質問を浴びせかける記者たちに囲まれた鯉太郎の前に空流勢が立ちはだかる見開きは静かで熱くて、胸に迫るものがありました。いつもギャーギャーと騒がしい空流の
面々ですが、本当に大事なときは静かなのが印象的です。ずっと独りでいようとしていた鯉太郎の戸惑いもお構い無しに、そうして当然と言わんばかりの笑顔で鯉太郎を護る空流の先輩たちは格好良い。


鯉太郎の初土俵の相手は、虎城部屋の力士、田上。
虎城側に仕組まれた相手ではありますが、このときの鯉太郎は相手が誰だとか、どんな思惑が絡んでいるかとか、そういったことはもはや関係がないほどに集中していたように思えます。先輩力士たちの取組みに貰った力、瞼に焼きつく父親の姿。それら全てが生まれた場所が土俵の上。その場所に向かう鯉太郎の魂(と書いて心と読む沢編集長イズム)は何よりも澄んでいました。その澄んだ魂が神聖な土俵の輝きを映し出したからこそ鯉太郎の打った柏手には神々しさが宿っていたのではないかと思います。
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この柏手の場面も見開きで描かれていますが、『バチバチ』は非常に見開き画が多い漫画です。あまり滅多矢鱈に大ゴマや見開きを連発されると萎えてしまうものですが、無駄がなく正に「ここぞ」と思えるところで見開き演出を使ってくれるので見ていて大変気持ちが良いです。
取組自体は主人公である鯉太郎が周囲に実力を見せ付けるために十分なものでしたが、相手の田上についても単なる「噛ませ」に終わらないよう描かれているところが素晴らしい。正直、予想外にムチャクチャ格好良かったですよ。こういう要素も、『バチバチ』が「相撲」の重みが詰まった作品になっている要因であると思っています。


鯉太郎が世間にヒールとして認識されていることについて語る空流親方の「悪役ってのは絶対的に強くなくちゃ盛り上がらねーからな」という台詞がありますが、その言葉を表しているのがこの作品においては(作品内の)世間からヒーロー視されている王虎だというのも面白いなあと思います。王虎の驕り高ぶりはともするとフラグになってしまいそうなレベルですが親の七光りだけでなくそれだけの強さを実際に持っているところが…。
また、王虎が鯉太郎に言う台詞でタイトルである『バチバチ』という言葉が使われた点にも注目。自分が覚えているかぎりでは作中で『バチバチ』というフレーズが登場したのは初めてだった気がするのですが…。。どちらにせよ、これからも重要な人物になっていくことは間違いがなそうです。



過去エントリ
漫画脳:”土俵”という場所へ、自分自身を証明しに行く第一歩。 『バチバチ』1巻
漫画脳:背負っていく物、守るべき家族。 『バチバチ』2巻(佐藤タカヒロ)