『平尾アウリ作品集 「4月1日」』平尾アウリ
コミックリュウ誌で漫画家百合漫画『まんがの作り方』を連載中の平尾アウリ先生の初短編作品集です。独特の果敢無げな描線と淡い色合いの表紙がとてもステキ。平尾先生の描線はどこか粗さも残るのだけど柔らかく繊細で、その”新感覚”とも謳われる真似の出来ない作風の形成に一役買っていると思われます。


収録されている作品は4作と少なめです。イラスト入り作品解説(あんまり解説っぽくないですが)、『まんがの作り方』の2人が登場するあとがきマンガ等の描き下ろしもあり。
掲載作のうち2作はガンガンWING掲載作、1作はBLアンソロ掲載作、もう1作は未公開作。方向性はバラバラな筈ですが作風に個性が強いせいか不思議とまとまっています。特にBLが一作入っているのに浮いていないというのは凄い。


個人的にはそのBLアンソロ掲載作「同じ桜は今年が最後」がツボでツボでしょうがありませんでした。びっくり。BLといっても非常にライトなBLです。この淡い感じがすきです。たまらなく。
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幼馴染みの高校生男子で年上の勇斗君が年下の望君をかわいいかわいい言っていやがられるお話です。…と、あえてミもフタもない説明。中身はお子のまま勇斗よりも背高に成長した望が無自覚にかわいさを振りまいているのが罪深い。だから身長差はツボなんですって…後輩よりちっちゃい先輩もツボなんですって…。


その他の掲載作について。
「髪と女」は女性の髪に魅力を感じつつも女性は苦手という澄太郎がたまたま見かけた理想的な髪の持ち主の女性を追いかけて髪結いになろうとするお話。女性が苦手な澄太郎に対し、どこか澄太郎のことを避ける娘の史子さんの微妙な距離感。後ろ向きで前向き。
「ほし色の」は高校初日に遅刻しそうになっている淳太君が「魔法をかけてあげる」という少女・りりちゃんに出逢い、どんどんその魔法のような不思議に包まれていくお話。彼女は淳太君が忘れていた幼馴染みだったのですが、その「魔法」の正体とは?最後がとてもきれいなオチです。かわいい!
表題作にもなっている「4月1日」は学校の屋上で出逢った男子女子4人のお話。特に波のない、平凡なお話のようですが途中途中で挟まる「傘」にまつわる心理描写がそれぞれの心を映し出しているのが印象的な一作です。ひょんなことでドッヂボールなぞを始める4人が、とても特別な出来事には見えないけど何かが動き出したような、あまり積極的でない前向きさがいいなあ、と思います。


どの作品も事件性や、大きな動きがあるわけではないのですが所謂「ゆる」系とも少し違う、なるほど「新感覚」だなと思うわけです。正直なところ「うまいマンガ」とは違う気もするし、ぎこちない部分やわかりづらいと感じる部分もあるのですがそれも含めた独特の空気がまるごと魅力なのだと思います。『まんがの作り方』も好きな作品ですが、たまにはこういった読みきりも読みたいなあ。「もう描かない、きっと」と書かれてはいますが個人的にはまたBLも読んでみたいです…笑。
それにしても、ナヲコ先生の『からだのきもち』も自由度高かったけど、リュウ発の作品集は懐深いなあ。ひとつの方向性に縛るよりもその作家さんの色々な表現や可能性が見える作品集って美味しいなあと思うのです。



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