この世の中には「善意」と「悪意」がある。
「悪意」はいつでもシンプルに、的確に人を傷つける。
それでは「善意」は…
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売れないモデルで、空手の実力者。普段はバイトで生活を繋ぐ比留川亜紀子。モデルとしての成功を目指す一方で、彼女には「カメラの前で笑えない」という致命的な弱点があった。けれど彼女が目指すのは”一流のモデル”のみ。くだらない愛想笑いの必要な仕事は受けない。しかしそうすることによって、一層彼女の立場は追い詰められていく。
高校時代、軽いきっかけから女子同士のイジメに合いとうとう不登校になってしまった葵美雪は現在もニートになり引き篭もりを続ける日々。動き出せない不安や焦りに身を蝕まれながらも、優しい両親の前でだけは明るい笑顔の良い子で在ろうとする。
ある穏やか夜、勇気を出して久し振りに外に出た美雪はその帰りの電車内で柄の悪い集団に囲まれる。理不尽な暴力に思わず叫んだ美雪の前に現れたのは亜紀子だった。
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木村シュウジ先生の新連載以来月刊ヤングキングを購読しているのですが、この『i.d.』はその中でも異彩を放つ作品。この生々しさは非常に女性的というか、ここまで読んでてキューッとなるような女性の痛々しさや嫌らしさを描いているのが男性作家というのがちょっと信じられないくらいでした。自分が岸先生作品で知っていたのがワンダフル内アニメ版の『COLORFUL』だけだったのでそのギャップに余計吃驚。
亜紀子と美雪が1巻ではまだ完全に出逢ってはいません。亜紀子にとっても美雪を助けたのは彼女を助けたいとかそういうことではなくどちらかというと単なる気分のリセットであって、卑屈な男共がいけ好かなかったことのほうが大きい。美雪の心は亜紀子に向いていきますが、まだ名前もどこの誰かも知らない状態です。
形は違いますが、2人とも過去に付けられた大きな傷から脱却しきれていない日々を送っています。美雪に至っては動き出すこともままならない生活ですが、前進を決めているはずの亜紀子の空回りも痛々しい。2人の日々感じる痛みが…フィクションとしてだけでなく、どこか自分にもリンクする部分があるのが強烈にキます。
2人の周りには敵しかいないわけではありません。美雪の傷を癒す為に温かく優しく見守る両親。亜紀子のモデル仲間や空手仲間は時に厳しいことも言うもののそれは多かれ少なかれ、亜紀子を心配してのこと。
しかしそれらの「善意」は、発された意志とは裏腹に真綿で首を絞めるように彼女たちを苦しめていきます。誤解や勘違いがあっても無下に出来ないからこその善意。善意には応えられず、焦燥感だけが募ります。
それでも勇気を出して、一歩踏み出そうとした瞬間を純然たる「悪意」が彼女たちを襲うのです。
それが1巻の内容。辛いです。しんどいです。めちゃくちゃ痛いです。ただ、プロローグ部分を見てもそれだけのまま終わる作品ではないとわかるのが読んでいる自分には救いではありますが、まだ描かれている美雪と亜紀子はその域には辿り着けていない。
鬱屈とした日々でも、微かながら生きる力が2人に感じられるところにまだ救われます。何もかもどうでもいいと言えないところに苦しさもあるわけですが。でも、その意志があるからこそ彼女たちは変化していける。
月刊ヤングキングという雑誌ではなかなか気が付きにくいとも思いますが女性にも読んで欲しいな、と思います。かなり痛々しい描写が多いので万人にオススメはできませんが、「心身共に痛いところをえぐってくるフィクション」が好きな方には是非読んでいただきたい作品です。
『マルスのキス』も気にはなっていたんだよなあ・・・月刊ヤンキンに感謝。なんとなく自分に合ってる雑誌です。
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