『限界集落温泉』鈴木みそ/コミックビーム連載中
前作『銭』は終盤しか読んでいなかったのであまり面白さは知らないままだったのですが、この『限界集落温泉』(ギリギリおんせん、と読みます)は初回から読んでいまして、これがまた面白いこと面白いこと。鈴木みそ先生は自分の中ではヒッポンスーパー→ファミ通と、日記系もしくはルポ系漫画のイメージだったので、今更ながらオリジナルストーリーの面白さに驚いております。正直昔は苦手な作家さんだったのですが、この面白さにそんなこと言ってる場合ではなかった。
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伊豆の山奥、65歳を超えた年寄りが住人の半数以上を占めるという”限界集落”にあたる村に建つ古い温泉宿「山里館」。小説家志望の父親と小学生の息子・龍之介の二人暮らしで営業停止状態の山里館は、借金のカタに立ち退きを迫られていた。
龍之介は偶然、現実から逃げ山奥に潜んでいたゲームデザイナーの男・溝田と出逢う。立ち退きを要求してくる大旦那を追い払うために溝田に芝居を頼む龍之介だったが、事情を聞いていた溝田にも自分に都合が良いように考えが回りだす。そして山里館には、また1人の人影が…。その人物は、自殺をほのめかして一人山奥へと迷い込んでいたレイヤーネットアイドル・アユポンこと及川あゆだった。
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錆び付いた山里館に、あれよあれよという間に人が集まりだし、ぐるぐると回りだすのが痛快な第1巻です。
人が集い、力を合わせることになってはいきますがそこに存在するのは必ずしも優しさとか善意ではありません。溝田は嘘ばかり並べている上に「どちらにつくほうが得か」などと考えながら行動しているところもありますし、アユポンを追ってきたファンたちの行動原動力はずばり下心ばかりだし。それでも、動き出すのですよ。そこに集まった人々の力で、錆び付いていた限界集落の村が。ついた嘘に勘違いが拍車をかけて、そんな中でも情が生まれて、人の力が人の力を呼んで物凄い勢いで回りだす。それがもう、面白くてしょうがない。そこにあるのが愛でも仲間意識でもなんでもなくても、人間の集まった力は凄いんだなと思いました。
「限界集落」に集う人々は皆ワケありな大人ばかり。まさに彼らも「ギリギリ」なわけです。現代社会が生んだ闇とでも言えば恰好もつきましょうか、そんな彼らがこうやって集った力で大きな歯車を回しだしているという気持ちよさもあります。
ゲームデザイナーにネットアイドルにそのファンという濃い面々なのでオタクネタも散りばめられています。ちょっとした台詞のセンスがすっっっっごいオタク臭でむせ返りそうになります。「行くぜ百万台!」とか。ああ、そういうこと言いそうだよこの年代のオタクが集まったら…。そんな痛々しさも面白いです。
中でも、アユポンの痛さと言ったらまったく見ているこっちの顔から火が出そうです。右手に何かいらっしゃるみたいだし。まあ彼女は結局のところ愛されていて幸せモノですわなあ。壊れた虚像のお姫様は、限界集落を救う女神に成り得るのかしら。
大人の間抜けな狡猾さと、龍之介の大人びた純真さ。その対比がばかにキレイです。大人が楽しめるまんがだと思います。なんだか不思議と、ちょっと元気が出てくる作品ですよ。今後どうなっていくのか非常に楽しみです。
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