週刊少年チャンピオンの巻末でゆるっとひそやかに連載が続いている石黒正数先生の『木曜日のフルット』、連載開始から1年と9ヶ月ほどの月日を経てついに1巻が発売されました!石黒先生の『それ町』アニメ開始に合わせてくるなんて秋田書店と思えないほどのナイスタイミング(失礼)。


このマンガの主人公・フルットは半野良・半飼いネコ。野良として暮らしながら、ボロアパートに住む無職女性の鯨井さんにごはんをもらっています。どこかマヌケなフルットと、ダメ人間まっしぐらな鯨井先輩、そして周囲のネコたちと人間たちが織り成すユルフワクスッと時々ドキッと、な基本2ページのショートコミックです。デフォルメされたキャラクターたちがコロコロと動くさまが大変かわゆいのですが、可愛いだけに留まらず面白さもギュギュッと詰め込まれていて、”2ページ”の持つ無限の可能性を感じさせてくれる作品になっています。


基本的にはうたい文句の通り「フワッと!クスッと!」なわけですが、石黒先生の他作品の例に洩れずそれが非常に「計算されたゆるふわ感」であることは確かです。計算と言ってもいやみな意味ではなく、漫画としてのうまさですね。それも毎回ゆるふわなわけではなく、風刺の効いたピリッとした話や毒のある話も度々挟まれています。そして、それでもそちらの(毒っ気の)方にだけ傾かず「やっぱりカワイイなあ~」と和めてしまうのは作品を全体通しての絶妙なバランスのおかげだと思うのです。


何せそれまで石黒先生作品を読んだことがなかった私が単行本を全部集めてしまうまでに至ったのだからフルット効果はすごい。石黒先生のすごみがもっとも簡略化されたようで、もっとも凝縮されているのが『フルット』なのではないかなと。誰でも読めるし、誰にでも楽しめるけど読めば読むほど奥が深い。すごいよ。


チャンピオンの巻末という枠に石黒先生を連れてこれたのは正に編集部の快挙。10週連載の予定がいつのまにやら定位置になった巻末連載、楽しく読んだチャンピオンの最後の〆としては鍋の後の雑炊くらいおいしい。(うどんでもいいのよ)初期は手探り感が否めなかったものの、今やすっかり愛される存在になりました。
1巻最大の見所はやはりスペシャル4ページバージョンで描かれた鯨井先輩とフルットの出逢いのお話でしょうか。フワッと!ホロッと!しちゃいますよ。つかず離れずな鯨井先輩とフルットの関係の原点にキュンとします。これぞ万人向けと言ってもいい、とてもオススメなマンガです。