『弱虫ペダル』渡辺航/週刊少年チャンピオン連載中

最凶インパクト!!なんという表紙でしょう…これまで出てきた『弱虫ペダル』の単行本の中でも異彩を放つ御堂筋表紙。意外なことに御堂筋が表紙に登場するのは初めてだったんですね。
IH2日目のスプリント勝負、そして続く山岳勝負…御堂筋率いる京都伏見の猛進は勢いを増すばかり。対する王者・箱学の選んだ策とは。そして総北は、坂道たちは追いつくことが出来るのか―…。


IH2日目からはこれまでその不気味さばかりが際立っていた御堂筋のキャラクターがはっきりとした形で描かれるようになってきています。15巻感想では新開が「御堂筋が常に纏っていた不気味なベールを剥がして”一人の選手としての御堂筋”を引き摺り出した」という書き方をしましたが、それでもやはり御堂筋は御堂筋。常軌を逸するほどの勝ちへの執着はこれまで以上に強くなっているように思えます。


そのまた一方で、御堂筋を擁する京都伏見の他の選手たちの思惑や過去も明らかになり始めます。
特に御堂筋が現れるまでエースであったはずの3年生・石垣の心中は非常に複雑。回想シーンではそれまで非常におだやかな部の雰囲気であったことが描かれていて、それ以前にもサポートに当たる京伏自転車競技部員と総北・手嶋とのやり取りのような細かな部分に本来は気の優しい部員たちの集まりであることが伺えます。
「勝利」への憧れと「仲間」への想いの間で揺さぶられる石垣がレース中に箱学の主将・福富に声をかけた理由、それは自分の信じていたはずのものに縋るような気持ちによるものだったのではないでしょうか。
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御堂筋のやり方で自分のチームが勝利すること…それは自分が信じて守ってきたはずのものを全て否定されることにもなるのです。自分自身が勝者という舞台に上がることへの強い憧れの一方で、本来そう在りたかった自分たちの形への未練。…これはまた後々の展開に響くところではありますが、この辺りでの石垣の葛藤は苦々しくも人間らしく、その姿には強い魅力を感じました。


しかし箱学は実に清々しい形で石垣の苦悩を吹き飛ばします。痛快なまでの王者の風格。中でも特に荒北が実に良いです。ホント、こういう人間になりたいです。あこがれます。この仲間をも惑わす(というか泉田のメンタルの意外な弱さにはびっくり)流れは読んでて興奮しました。


さて、そして先頭集団には未だ追いついていない総北にも大きな動きがありました。インフレが止まらないのは寧ろ、主人公・小野田坂道の強さかもしれないのですが…。ただ彼に決定的に欠如しているものがあります。それは「勝利への執着」。坂道には「他人と走ることの楽しさ」と「自転車の根源的な楽しみ方」が桁外れで備わっていますが、自分自身が勝者となることにはほぼ関心がないといえます。今回の仕事も人が求めてくれたからこその結果。「弱虫」という形容詞には誰もが首を傾げるような主人公になりつつある坂道ですが、今後この受動的なヒーローが能動的なヒーローに成長していけるかどうかは作品自体の方向性にも関わる大きな鍵になっていくと思っています。

 

ところで、今回巻末には普段の「自転車は楽しい」のコーナーとは少々毛色が違った『弱虫ペダル』という作品の生い立ちについてのおまけ漫画が収録されています。渡辺先生自身のロードとの出逢いから、企画の成り立ちまで…今までにもインタビュー等で語られている部分と重なる内容もありますが、今回初めて知るようなこともあってファンとして非常に楽しく読ませていただきました。
中でも必見なのは現在の『弱虫ペダル』になる以前の女の子主人公版『弱虫ペダル』ネーム(の一部)!女の子主人公の予定だったとは聞いていましたが、これは自分が知る限りでは初公開のはず。…主人公(の予定だった)・大桑島乃ちゃんがめちゃくちゃ可愛いんです!!!!うおおおおお・・・・・これも・・・・これも読みたかった・・・・・!!!!! 渡辺先生が描く女の子はやっぱり最高に可愛い!可愛くて最高!正直、16巻を読んで色々と考えていたことが一瞬で吹っ飛んでしまいましたよ…おおおぉ。現在の『弱虫ペダル』も大好きですが、何らかの形で島乃ちゃんが活躍するお話も読みたいなあ。

 

過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
漫画脳:インターハイ開幕!疾走感、御堂筋、そして腹筋(アブ)へ… 『弱虫ペダル』9巻(渡辺航)
漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
漫画脳:心理戦の限界を超えた先に 『弱虫ペダル』15巻(渡辺航)

『弱虫ペダル』・坂道から消えたのはオタク魂ではなくて
漫画脳:描き文字に見る、渡辺航先生イズム