久々に考察のような記事を書いてみます。『弱虫ペダル』の単行本未収録分についての話題がメインとなりますので単行本派の方はご注意ください。


そもそも『弱虫ペダル』に関しての考察系記事は基本的に単行本収録分のみをベースにするつもりだったのですが、今回の件はどうにも自分の中でアレコレ考えてしまって収まらないので少し纏めておこうと思います。本来は2週前のチャンピオン掲載分を読んだ時点で書こうと思っていたことが原点なのですがなんやかんやでチンタラしてました。


『弱虫ペダル』の中でも最強・最凶キャラとして描かれる御堂筋。謎に包まれていた彼の本質の部分がここ最近数週に渡って描かれ始めています。そしてそれを知るうちに私はその本質…御堂筋翔という人間の原点は『弱虫ペダル』主人公の小野田坂道に非常に近いのではないかと感じているのです。


そもそも”御堂筋=オタク説”はうっすらと抱いていました。STRANGERさんのブログで書かれたこちらの記事とほぼ同じ印象です。(私が抱いていた漠然とした印象よりもこちらの記事の方が何倍も深いですが)

「弱虫ペダル」の御堂筋は、実はオタクなんじゃないか? という疑惑 - さよならストレンジャー・ザン・パラダイス

その後作中にそれを裏づけるような描写は無かったのですが、チャンピオン15号に掲載された150話のこの場面でふとその考えが蘇ってきました。
2011032702400000
観客の「キモい」発言に苛つきを見せる御堂筋。かつて御堂筋自身が今泉に「キモい」を連呼していたことも含めて考えると、その言葉に対する反応にコンプレックスを超えた執着を感じます。これがイコールオタク、というわけではありませんがここで再び”御堂筋と坂道のルーツは近いのではないか?”という仮説が頭に過ぎりました。


一方現在でこそ仲間を信じる力だけでペダルを漕ぎ続けるほどの精神力を見せる坂道ですが、連載開始時は非常にネガティブな面が強い少年でした。
2011032702390000
作中で見られる範囲内でも同級生のアヤちゃんに「キモい」と言われていますし、坂道自身も運動部というだけで他人を毛嫌いするような人間でした。彼も、ロードレースとそれを介して出逢った仲間がいなければ今のような他人を信じる力を持ってはいなかったでしょう。


その漠然と感じていた「御堂筋と坂道の共通点」の決定打となったのがチャンピオン17号、152号の回想で描かれた御堂筋の過去です。
御堂筋がオタクだという描写はありませんが、友達という友達ができず孤独な少年時代を過ごしてきたこととがここではっきりと描かれています。そしてもう一つ坂道との共通点が明らかになりました。それは御堂筋にとっても坂道にとっても(形は少し違うとはいえ)元々自転車が「自分にとっての幸せへ辿りつく手段」であったことです。
2011032702430000


しかし御堂筋少年はその「幸せ」を失います。
幸せを失った御堂筋少年に残されたのは、ひた走る先頭を守り続けることのみ。


御堂筋の信念自体が悪いものとは私自身思っていません。寧ろその勝利への執念は素晴らしいとすら思います。
ただ、勝利を得続けた先、彼の元に何が残るのかという不安があるのです。仲間との馴れ合いが彼を救うとは言い切れません。しかし、考えてしまうのです。御堂筋は少しでも自転車を楽しいと思って乗っているのだろうか?その先には何があるのだろうか?と。
一方、仲間を得て、自転車そのものの楽しみを知った坂道にとって何よりも足りないのは「勝利への執着」なのです。
仲間の信じる力さえあれば100人抜きも可能にするスーパールーキーとなった坂道ですが、「ロードレースで勝利する」ということに関しては実は未だにさほどの関心がないといえます。


人格形成の部分に似たところがあるこの2人ですが、得たものと欠落しているものが真逆。実に興味深い点だと思います。
そしてまだこの2人は真の意味では出逢っていないとも言えます。この2人がライバルと呼べる関係になる時期。それが来るときは互いが互いの欠落した部分を補う時になるのではないかと期待しています。坂道は御堂筋の救いになれるかもしれない。御堂筋は坂道を真の意味で戦える主人公へと導く存在になるのかもしれない。


最大のライバルとなり得る2人が未だ互いを認識していない事実。
それを思うと、『弱虫ペダル』はこれからもっと面白くなる時期がくると思わずにはいられません。

 

過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
漫画脳:インターハイ開幕!疾走感、御堂筋、そして腹筋(アブ)へ… 『弱虫ペダル』9巻(渡辺航)
漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
漫画脳:心理戦の限界を超えた先に 『弱虫ペダル』15巻(渡辺航)
漫画脳:捨て行くものと信じるもの 『弱虫ペダル』16巻(渡辺航)

『弱虫ペダル』・坂道から消えたのはオタク魂ではなくて
漫画脳:描き文字に見る、渡辺航先生イズム