漫画脳的悪ガキフェスタもようやくラストです。ラストとなる今回は『ナンバデッドエンド』について語らせていただこうと思います。少し前から書きたいと思いつつも書きそびれていたことなので、この悪ガキフェスタがちょうど良いきっかけになりました。


『ナンバデッドエンド』は今月の発売で12巻ですが、前作『ナンバMG5』全18巻と合わせるとトータルで30巻となり最近のチャンピオンの中ではかなりの長期連載作。『MG5』の初期はヤンキー一家に生まれ育った主人公の難破剛が、ケンカだけしかない自分の生活に疑問を感じて家族に秘密で普通の高校生活を送るという二重生活コメディ色の強い作品でした。そこに、いざというときには特攻服を着てヤンキーモードで降りかかって来る敵を倒す変身ヒーロー的な要素と、家族や友達に嘘をついて二重生活をし続ける剛の苦悩が徐々に加わり、既存の”ヤンキーマンガ”の枠に捕われない面白さが確固たるものに。物語に一区切りを付けつつ、剛自身の二重生活にまつわる問題に一つ一つ決着をつける章としてよりシリアス路線がより色濃くなったのが今作『ナンバデッドエンド』です。


『デッドエンド』が始まってからというものの作品の緊張感はまったく緩むことが無く、家族との問題、学校での問題、そして今までに剛が振るってきた「暴力」から呼び起こされる災いとの決着、あるいは解答が一つ一つ真摯に描かれています。
そこでは主人公である剛だけではなく、関東制圧の過去を持つ元最強ヤンキーである兄の猛が自分の仕事を見つけていく経緯などそれぞれの成長からも目が離せず、そこには確かな感動があります。そしてその中でもめざましい躍進と成長を遂げているのがこの作品のヒロインである「藤田深雪」さんです。


藤田さんは剛が家族に隠れて入学した「白百合高校」で一年生の頃から同じクラスの美少女。…なのですが、見た目の可愛らしさとは裏腹に藤田さんに憧れている剛ですら時にドン引きするほどのガサツで強力なキャラクター。長期休暇中はガテン系バイトで金を稼ぎ、かつては特服の男(=剛)を金で売ろうとしたことすらありました(その件に関しては、藤田さん自身その後猛省する展開ではありますが)。
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(『MG5』2巻より。ヒロインの顔じゃない!)
『MG5』中期では出番自体が余り多くなく、その性格といい登場率といい剛が惚れているという要素以外にヒロイン的な成分がほぼ無い状態に。どちらかというと後期から登場した剛ら美術部の後輩であり、その裏では剛と同じように二重生活を送りレディースの総長を勤めていた「牧野弥生」の方がヒロインに相応しいのではという評価が目立つようになりました。寧ろ、藤田さん自身が剛とやよいをくっつけようとしている描写すらあったくらいです。


しかし、剛の正体が学校全体にばれ、退学処分となるというまさに『デッドエンド』な展開が始まってからの藤田さんの行動力と心根の強さは目を見張るものがあります。
退学取り消しを訴える為に体育館へ立て篭もりを決行したり、退学後音信不通となった剛の地元へ訪ねたり、とうとうその近所の喫茶店でアルバイトを始めては剛のヤンキー仲間の悩みを聞いたり、剛と顔を合わせた時には皆と連絡を取るよう説得したり…。
藤田さんのキャラが豹変したというわけではなく、これまでの日常では「ガサツ、豪快、そして無茶なまでの行動力」の自己中心的かつトラブルメーカーな部分だけが際立っていた藤田さんの「強さ」が剛の退学という非常事態によって本領を発揮した形になっているところに小沢先生の巧みさを感じます。


元ヤンのやよいがひたすら剛の傍に寄り添うことしか出来ない一方で、とうとう藤田さんが剛に対しての怒りと優しさをぶちまける場面は圧巻とすらいえます。
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伝説の場面、まさに圧巻の大根殴り!(『デッドエンド』12巻より)
これまで剛が喰らってきたどんなパンチよりも痛みのある攻撃であったに違いありません。もはや、誰も疑うことの無いヒロインとしての立ち位置。それも、「藤田さんがこういうキャラである必然性」を強く感じさせる展開に唸るばかり。


この記事では藤田さんに焦点を当てて語らせていただきましたが、どのキャラクターも実に人間味があってそれぞれの苦悩や成長に『デッドエンド』では涙腺が刺激されっぱなしです。ヤンキーマンガという枠に躊躇してこの漫画を読まないという選択はあまりにも勿体無いと断言できます。大人の心にぐっと響く漫画です。こういった作品が「週刊少年チャンピオン」に連載されていることに誇りすら感じています!現在も手に汗握る展開ですが、剛たちには幸せになって欲しいと心から願いつつ毎週を楽しみにしています。
今から読み始めるには、まず『デッドエンド』1巻を読むことをあえてお勧めしたいです。作風がかなり変わってますので。でも『MG5』からの一気読みも当然オススメ!