『官能小説家烏賊川遙のかなしみ』蒼崎直/コミックリュウ連載中
以前『このオッサンが可愛い!2011』というふざけているようで大真面目な記事をアップしたのですが、この企画の中で取り上げつつも作品の感想記事を未だ書いていなかったので遅ればせながら取り上げさせていただきます。
タイトルで一目瞭然ですがこの漫画の主人公・烏賊川先生は官能小説家。長年コンビを組んできた挿絵画家・深水春馬先生が亡くなり、スランプに陥っていたところその孫にあたる新人イラストレーター・MOMOJI君と出会い…ジェネレーションギャップに苦しみながらもエロを生業とする者同士にしか分かち合えない絆が育っていく、どこか熱さを帯びたコメディとなっています。
昔ながらのポルノをこよなく愛する烏賊川先生と、最先端の同人作家なMOMOJI君。同じ単語から連想するモノですら大きな誤差があるふたり(女中→メイド変換、などなど)。共同作業で作品を生み出すにはあまりにも険しい道のりです。しかし紙面で展開する「ファンタジーとしてのエロ」を愛する者同士の魂が通じ合う瞬間は実に熱い!
世代は離れ形は多少違えども、エロを生み出すことに対する情熱は同じ。そのギャップに苦しむ烏賊川先生とMOMOJI君それぞれの戸惑いはコメディとして非常に面白いところなのですが、それを乗り越えようとお互い理解出来ないなりに歩み寄ろうとする姿には「二次元エロス」を愛する者であればどこかグッときてしまうものではないかなと。
エロスを生み出すことには世間とのズレもあり、それ故に葛藤を抱くことや糾弾されることもあります。そういった暗い部分が直接描かれていることは殆どありませんが、烏賊川先生のこれまでの作家生活でそういった苦悩に幾度となくぶつかってきたということがうかがえる描写は端々にあります。
中でも烏賊川先生とその母親についてのエピソードはしんみりとしているけど温かさを残す良いお話です。理解され難いものだけど、生み出す人たちにはそれぞれの人生があって、家族がいて…。当たり前といえば当たり前のことなのですが、じわりと沁みてきます。
官能に誇りを持つ烏賊川先生のプロ意識は(時々折れるけど)素晴らしいのですが…私生活ではどこか頼りないところも魅力的です。そりゃあ自分が「このオッサンが可愛い」で取り上げさせていただいたくらいですからやっぱり烏賊川先生は可愛いんです!
小説の世界ではあれやこれや出来ても目の前に置かれた据え膳は食えないヘタレ紳士っぷりがどうしようもなくいとおしいです。官能小説、と頭についているから内容もエロスに溢れているのかと思いきや実はむしろおっさん萌え漫画でした。やった!得したね!さらに自分としては烏賊川先生とMOMOJI君のギャップを埋めながら歩み寄る姿にBL的な感情ももよおしてしまうのでした…すみませんすみません。しかし「官能小説」というキーワードだけで遠ざかってしまうには勿体ない面白さがあることは確かです。(ごまかしたつもり)
ある意味ではオタクを描いた作品の変化球タイプ、という印象です。細かく気にしてしまうと、同人的な話題などで若干知識不足感もあるのですが(MOMOJI君の「コミケでサイン会やりましょう」発言とか。コミケではサイン会のような行為は禁止。)登場人物の熱意には真摯さがあるのでそこら辺の事情を割り切ってしまえば…という感じです。
現在もコミックリュウ誌上では連載中のようですが、単行本には巻数表示なし…是非とも続きが読みたいと思っております。リュウも気になる作品多いんだよなあ…。
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