『まじもじるるも 魔界編』渡辺航/月刊少年シリウス連載中
※注意※
この記事には『まじもじるるも』7巻及び現在連載中で未単行本化の『魔界編』についてのネタバレが含まれています。しかし、同時に現在の『るるも』の凄さを語ることがどうしても我慢できないという記事でもありますので…「読んだことないけど、読もうか迷ってる・且つ多少のネタバレなら気にならない」という方がいらっしゃったら目を通していただければ嬉しく思います。
地上編最終回からの怒涛の展開続きに、もう胸が抉られっぱなしなのです。いま一番私にとって、リアルタイムで追っかけなければいてもたってもいられない漫画。



【主人公の「死」】
地上編のラストで「魔法のチケットを使い果たした時、魔女の修行が終わると同時に契約者である人間は死を迎える」という契約通り、そしてるるも自身がそれを知らぬまま死を迎えた柴木耕太。第2部である『魔界編』はシバキの葬儀という衝撃的な場面から始まります。シバキの家族、同級生らそれぞれの哀しみに暮れる表情と行動は逐一胸に突き刺さるものがあります。中でも、柴木母の台詞と幼馴染の井上委員長の言動は涙を誘います。いつも「ヘンタイシバキ」の名で呼び厳しく当たっていた井上さんが火葬の直前に「コウタくん!!」と叫ぶ場面は、さりげない描写ながらかつて(幼き頃に)そう呼んでいたのであろうことが伝わってきてすさまじい切なさでした。渡辺先生が作中で「死」をはっきり描いたのを初めて見たものですから、その痛みは尚更強く感じられました。


第2部の1話から非常にシビアな展開。それまで『まじもじるるも』の「主人公」は柴木耕太であり、るるもはその元に降り立った子魔女、というのが自然な見方でした。物語の大半はシバキ目線を通して描かれており、ある意味でシバキは『ドラえもん』におけるのび太、もしくは『うる星やつら』におけるあたるの立ち位置。るるもはそれを助けながら自分も成長する存在であり、物語のヒロインでもありました。
しかしその”主人公”を失うという形で物語は第2部に突入します。即ち、第2部からの『まじもじるるも』はまったく違った作品であるともいえます。改めて”主人公”の位置に着くにあたりるるもは2つの要素を得ていきます。




【「笑顔」】
るるもは殆ど表情を変えることがありませんでした。使い魔のチロですら、るるもの笑顔を見たことがなかったというほどに。地上編ではただ一度だけ、最後のシバキとのデートの最中に不意に笑顔になったことがあります。しかし、何百年もの間動かなかったその表情が笑顔になってしまうほどに明るくてバカなその存在はもう居ない。


では、るるもはもう笑顔になることはないのか。
その逆でした。
シバキの肉体が消滅する寸前、るるもは「笑顔」になるのです。

2011053003260000

命を削るチケットを持ちながら、黙ってそのチケットを使い果たして自分をもう一度魔女にしてくれたシバキ。自分の気持ちを、精一杯の「ありがとう」を、何も伝えられずに消滅していくその肉体を前に不器用で、ぎこちない笑顔を見せるるるも。この場面にそんなるるもが笑顔だからこそ…いっそう哀しみが際立ちます。


それからというもの、普段は変わらぬ無表情のままですが時折るるもは笑顔を見せるようになるのです。バカで、どうしようもない奴だったけど明るく励まし、るるもを大事にしてくれたシバキの教えてくれたことをすべて吸収していくかのように。




【「能動」】
笑顔を見せるようになるとはいえ、るるもの根っからストイックな性格はなかなか変わりません。地上へ来る前から落ちこぼれで苛められていた過去を持つるるも。ワナに嵌められて牢獄に永い間独り閉じ込められていたという壮絶な過去すら、ひたすら静かに堪え忍んで生きてきた彼女。


シバキが命を落とし、再び正式な魔女となったるるもに課せられた最初の魔界からの仕事は”地上にいる人間のるるもに関する記憶を全て消すこと”でした。るるもにはシバキという存在を通して得た家族と友達が居ました。彼らの中から、自分の存在を抹消する。シバキを失ったばかりのるるもにとって追い打ちのような使命。しかしその過酷な使命を全うし、るるもは魔界へと還ります。自由に魔法が使えるようになった今も、重くのしかかる魔界のルール。るるもがそれに抗うことはありませんでした。


たとえ自由に魔法が使えるとしてもるるもが自分自身の私欲のために魔法を使うことはありませんでした。最新号のシリウス掲載分第45話(第2部4話)で彼女自身が魔女を志した理由が明らかになりますが小さな頃からそのストイックさは変わっていません。
2011053003270000

病気の母親を魔法で治すために魔法学校へ向かうその日から。しかしその後のるるもを待ち受けていたものは…想像を絶するような哀しみ。
るるもがどんな仕打ちや哀しみにも耐えて来られた理由が少しだけ分かった気がします。これほどまでの絶望に直面し、帰る場所もなく独りで生きてきたから。それ以上に求めるものもなかったから。
しかしるるもは再び地上で得たのです。大事なものを…大好きな人を。それを再び失うまでその気持ちを自覚することもなかった不器用なるるも。


シバキは魔界で魂だけの姿…魂晶となり保管されていました。るるもはハルリリに連れられシバキに一言、「ありがとう」を言うために本来立ち入ることが許されない保管所へと足を踏み入れます。
…しかしやっとのことでシバキの魂晶をその手に取ることが出来た直後、魔界の番人に発見され回収されてしまいます。
その時です。
誰がこんなことを予想できたでしょうか。


あのるるもが誰かの為ではなく、
自分自身の意思で。
シバキの魂晶を奪い返したのです。

2011053003270001

こんな顔をするるるもを、こんなことを叫ぶるるもを。これまで読み続けてきた読者ほど想像が出来なかったはずです。愛おしい気持ち、失った哀しみがこれまで動くことのなかった感情を揺さぶります。ここにきてるるもは真の意味で作品の”主人公”の立ち位置に着いたといえるのではないでしょうか。魔女になることよりも、強く確固たる意志、目的を得たのですから。




【るるもという「主人公」】
渡辺先生は『まじもじるるも』という作品が生まれた理由を「頑張る女の子が描きたかったから」と語られていました。地上編ではドタバタコメディとしての側面が強く、そんな愉快な仲間の中でもひたすら不器用にがんばる子魔女、という立ち位置だったるるも。
一転しての『魔界編』は驚きの連続です。自分自身に足りなかったものを得たるるもは驚くほど逞しく感じます。これで熱くならないわけがない。物語を通してヒロインから主人公となったるるもを兎に角応援したい気持ちでいっぱいになります。


コメディ要素はほどよく交えつつ毎回が感動と衝撃の連続。渡辺先生のことが元から好きだから…というだけでなく、いや渡辺先生の作品が大好きだからこそ驚くことばかりです。作品の進化が止まらない。もう、本当にもっともっと読まれてほしいです。漫画の凄さ、をストレートに感じます。物凄く面白い。それしかいえない!前にも同じようなことを言ったとは思いますが『弱虫ペダル』だけ読んで渡辺先生の凄さを知った気になんてならないでほしい!とすら思います。可愛くて…笑えて…心震えて…熱くなる。目が離せないよ…!