『ママゴト』松田洋子/コミックビーム連載中
コミックビームという雑誌はこれといった決まりも方向性もないのに掲載されている作品にはどこか「ビームらしい」と思わせる雰囲気がある、のが良いところです。この『ママゴト』という漫画も題材自体はどちらかといえば婦人誌のようなのに「ビームらしい」「ビームだからこそ」と思える作品。せつなくて優しい「ごっこ遊び」の物語です。
小さなスナックのママ・映子。彼女はかつて、風俗店で働いていたころに授かった赤ちゃんを不慮の事故で失った傷を癒しきれずに独り生きていました。
そんな映子はかつての同僚・滋子に5歳になる息子・タイジを無理矢理預けられ、滋子はそのまま失踪。なすすべもなく始まった映子とタイジの共同生活。
親に育てられたことも、親として育てることもほとんど知らなかった映子はどうすれば子供が育つのかすらわからない。
しかし失った自分の赤ちゃんの記憶に縛られ、はじめはタイジを邪険に扱っていた映子もタイジのまっすぐ純粋な言葉や行動に救われていきます。
タイジの笑顔と素直な言葉は無意識のうちに強くあろうとして闇に突っ込む大人の心をほぐすのに、何よりも効果的なのです。
ずっと一人で生きてきた映子に、「いってらっしゃい」を言ってくれる相手がいる。「いってきます」を言える相手がいる。それだけで「仕事がんばるか」なんて気持ちになってしまう。
”一緒にいる”だけで得られる幸せ。それがようやくわかってきたときに滋子からの手紙でまた映子はどん底に突き落とされます。
そう、この生活は「ママゴト」。タイジにとっては母親である滋子の元へ帰ることが一番の幸せ…映子自身も理解しているからこそ追い詰められていきます。ようやく得られたこの幸せはどうなってしまうのか…2人は「ずっと一緒に」いられるのか。
映子やタイジだけでなくどこかに心の傷や引っ掛かりを持った登場人物たちは皆器用ではなく、他人への優しさすら手さぐり。でも、そんなぎこちない優しさにぶっきらぼうだったりする言葉がとても暖かいです。心の痛みに身に覚えがあると尚更。
どんなまわりくどい褒め言葉より、生まれてきて育っていくことを肯定してくれることはどんなに有難いことだろう。自身の過去から滲み出たようなこの言葉が、後々映子にも返ってくるんです。
ようやく掴みかけた距離は、このまま引き離されてしまうのでしょうか?映子とタイジの関係を現すにはどんな言葉を使えばいいのだろう。当然”親子”ではありません。所詮これは”ママゴト”なのか…。1巻の時点ではとても辛いけれど、多くの人に見守ってほしい物語です。
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