『弱虫ペダル』渡辺航/週刊少年チャンピオン
『弱虫ペダル』もとうとう20巻に突入です!1日遅れで発売される『まじもじるるも 魔界編』は無印が7巻で完結、『魔界編』からはカウントリセットされてしまった為に10巻の大台が突破できず少々残念であります…。



そんな20巻の舞台はIH3日目。先頭集団を目指し、協調する箱学と総北に迫るのは呉南に声をかけられた選手たちによって結成された大集団。
途中チームメイトの脱落を余儀なくされ、先頭へ届く術を失った選手たちを「先頭まで共に向かう」という言葉で惹きつけたのは呉南のキャプテン待宮。19巻では坂道らがゴール目前での”足切り”を目の当たりにしてロードレースの過酷さをその身と心に刻んでいましたが、その無念を背負って走る選手たちにとって待宮の言うそれは心を揺さぶるに余りある言葉であったに違いありません。



しかし箱学・総北の合同集団に近付いた瞬間、あっさりと呉南は態度を裏返し集団を切り捨てます。
一方混乱する大集団に飲み込まれてしまった坂道。IH最終日という局面で、先を行く総北のメンバーもただそれを待つという答えは選べません。前日の夜、金城主将からかけられた言葉の通り、坂道を置いてでも前へと進むことを選びます。



それが総北というチームの選択肢です。ならば、坂道は何を選ぶか?
集団の中に独り取り残され混乱する坂道。ところがその混乱、焦り、迷いはある事をきっかけに吹き飛ばされます。



それは、待宮の本音を垣間見たとき。
人の心を利用し、あっさりと裏切る待宮を見て坂道は
「あの人は…
 皆を混乱させて
 気持ちをゆらしてこわす人だ…」
と判断します。
それを自分の信じる仲間に「近づかせてはいけない」と判断した瞬間、坂道の迷いは払拭されました。
チームの走りの為に置いてゆかれても尚、自分がチームの為に出来ることが最優先事項なのですよね、小野田坂道にとっては。たとえ多少うろたえることがあっても、彼の信じる力はぶれません。



しかし坂道が他人をこう捉えること自体が異質だったので非常に驚きました。あの御堂筋がどんな悪態をついても多少怯える反面、基本はニコニコ接していたことを考えると『弱虫ペダル』作中で主人公の目を通してヒールとして描かれたキャラは実は待宮が初めてなのではないか?と気付きます。
少年時代の回想や2日目の夜のことなどをあわせて考えると、かつて御堂筋を「絶対的なヒール」と読者に思わせていたこと自体が実はミスリードであったのかもしれないとすら思えてきます。



さて、その待宮率いる呉南を止める為にも集団を抜け出さなければならない坂道ですが、一人の力では困難。協調してくれる相手を探さなければなりません。
そこに現れたのは…箱学の荒北。
集団をコントロールするために残った荒北は、坂道にとっては直球で「苦手なタイプ」です。
かつて自転車競技に出逢う前、「運動部の人間」はひとくくりで苦手としていた坂道ですが、大声で罵ってくる荒北はまさにその当時から避けたいと思っているタイプの人間だったのでしょう。どう見ても真逆な性格の2人。



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この2人が協調を決める会話の場面が好きで何度も読み返してしまいました。
かつての坂道はこうして自分の想いを(ましてや、「苦手なタイプ」の)相手に伝え、貫き通すことが決して出来ない人間でした。そう思うとこの会話だけでも坂道の成長が感じられて嬉しくてなってしまいます。何だかんだ、総北のメンツは「やさしい」人ばかりでしたし、荒北との接触は物凄く新鮮に感じます。



通して見ていると意味は違えども、心がざわつく人間の待宮や苦手なタイプの荒北といった単純には心が通わせられない相手との接触によって坂道が成長の段階を乗り越える巻であったような気がします。
坂道・荒北に「フシギちゃん」真波を加えた3人と呉南の激突の行方ですが…それは21巻へと持越し。ここらは待宮の回想シーンを含めて思うところもあるのですが、次回に併せて語れればと思います。



過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
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漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
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漫画脳:捨て行くものと信じるもの 『弱虫ペダル』16巻(渡辺航)
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