『サッカーの憂鬱』能田達規/週刊漫画サンデー掲載
能田達規先生のサッカー漫画!…といえば、それこそチャンピオン読者にはおなじみかもしれませんが、自分はチャンピオンで連載されていた能田先生のサッカー漫画にはいまだ触たことがございません…。
しかし、コミックバンチで連載されていた『オーレ!』は愛読しておりまして、地域密着という題材やフロント側からの視点の独特なこの作品は『GIANT KILLING』に並ぶ”Jリーグのサポーターに読んでもらいたい漫画”といまでも思っています。

そんなサッカー愛・Jリーグ愛に満ちた視点でサッカー界を描く能田先生の新作が単行本になりました。その名も『サッカーの憂鬱』。
タイトルを見るとものものしい印象を受けますが、サブタイトルは「裏方イレブン」。そう、サッカーといっても選手たちではなく、その業界を裏で支える職業に就く人々が主役の短編集です。
例外的に選手が主役の「第3GK」回もありますが、他は「審判」「クラブ広報」「ホペイロ」「スポーツカメラマン」「通訳」「実況アナウンサー」「ユースコーチ」「クラブ社長」「チームドクター」「ターフキーパー(芝管理人)」…と試合やクラブチームを陰で支える人々が主人公。時には選手やサポーターの不満をぶつけられ、その仕事が脚光を浴びるようなことはほとんどない…。しかしながら、彼らの活躍なくして選手たちの華々しい舞台を築くことはできません。

サッカーを観ている人であれば、審判のジャッジに納得がいかずイライラしたり、現場でブーイングをした経験がある人もいると思います。
そんな審判は何を想いピッチに立ち続けているのか。試合中の選手に向けられた「てめぇちゃんと見てんのかよ オレたちは生活がかかってんだぞ!!」という暴言を吐かれたときの(オレも生活がかかってるんだよ)というモノローグにはっとさせられます。審判という立場は、そうやって感情をあらわにすることすら許されない。正確なジャッジをして当たり前、誰にも感謝されることもなく、誰にも好かれない…。でも審判がいなければ、サッカーの試合は成り立たない。

個人的に特に印象に残ったのは、「通訳」編です。
感情的な外国人監督に振り回される通訳の山辺。特にサッカーが好きなわけでもない彼はプライベートでも呼び出してくる監督にうんざりし、自分の生活について疑問を抱くこともある日々でした。そんな中、ひょんなきっかけで知る選手の夢や監督の孤独。そして、それでも人に夢や希望を抱かせるサッカーの力を実感します。
ある日の試合で、監督が選手に向けたきつい言葉を山辺は直訳せずに、選手自身の口から聞いた夢を奮い立たせる内容で伝えます。
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その言葉を受けた選手は後半のロスタイムに決勝ゴールという形で最高の結果を見せます。その時、選手が真っ先に抱き着くのはやはり監督なのです。間に立つ通訳の機転をそれぞれが知ることはありません。けれど、山辺はそれに対して感謝をしてほしいなどとは微塵も思っていない。結びついたその結果が彼にとっても何よりも大きな喜びとなるのです。



サッカーが好きで就いたのに、試合を観ることができない職業。サッカーが好きなわけでもなかったのに就かざるを得なかった職業。様々な立場の人間がサッカーにかかわっています。現場で見かけたことがあっても、その人々がどんな気持ちでかかわっているかなんて考えたことのある人はきっと多くないはずです。こういった職業に目を向けた漫画が描ける能田先生のサッカー愛はやっぱり本物!
「憂鬱」の多い裏方でも、彼らの小さな喜びとなる部分もまた、サッカーによって生まれていることに少し安堵します。いちサポーターとしては自分の言動を顧みたりもしてしまいますが(笑)、ぜひ多くのサッカーファンに読んでいただきたい一冊です。