『空が灰色だから』阿部共実/週刊少年チャンピオン連載中
全3回の『空が灰色だから手をはなそう』集中連載を経て、2か月を待たずして『空が灰色だから』の題で本連載が開始した週チャン2011年最大の怪物作品がついに単行本刊行。この日が来るのを待ち望んでおりました。
阿部共実先生は2010年に読み切り『破壊症候群』でデビュー。読み切り掲載から数か月後には「日刊!浦安鉄筋家族 THE WEB」でのウェブ連載枠を獲得し、女子高生しゃべくり漫画『ドラゴンスワロウ』を発表と元々週チャン期待の新人作家のひとりとして強く認識されていたのですが、この『空が灰色だから』でついに才能のリミッターが外れたという感じです。


様々な「うまくいかない人々」の日常を描く12ページ短篇が基本スタイルで、毎回主人公・舞台が一新されるオムニバス連載となっています。(ただし、「再登場」もありうることが本誌連載分では確認されております)
1巻には12篇が収録。
短期集中版の『空が灰色だから手をはなそう』から『空が灰色だから』、とタイトルが短くなったことでより作品の可能性が広がったといえるかもしれません。



ぐりぐりの大きな瞳が特徴的なポップかつキュートなデフォルメの効いたキャラクターに「あっ、可愛い」と思いページをめくると、まず人物の可愛らしさとは裏腹にどこか退廃的な香りが漂う背景・小物の緻密な描写に目を奪われます。
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可愛げが感じられないほどうっそうと茂る植物。
灯りに集まる小虫。
グロテスクな苺。
そんな周辺のリアルさと可愛らしいキャラクターとのアンバランスさにまず心がざわつくかもしれません。けれどそれはほんの氷山の一角でしかなくて。



主人公だけでなく、作風自体も毎話ごとに変化するため「空が灰色だからとはこういう作品である」、とは一言では表現し難いです。
「うまくいかない人々」を主人公としてそのうまくいかないようすを笑うオチのパターンもあれば、うまくいかないまま歯止めがきかずシャレにならない暗黒面のまま幕切れするパターンもあります。
最終的にどちらに転ぶか読んでみないとわからないところが魅力でもあり、何度読んでも慣れない、落ち着かない要因でもあります。ブラックボックス。



短期連載時に衝撃のあまり単独記事を書いた第2話「お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い」などは『空灰』ダークサイドを代表するような回でした。
救いのない回は本当に、とことん救いのないまま終わってしまいます。
取り返しのつかない状態に陥った登場人物を前に、読者もざわついたまんま放置状態。
耐えられない人には耐えられない漫画だと思います。
漫画読むのにどうしてしんどい思いしなくちゃいけないんだよ!って言われたらぐうの音も出ないです。
でも何故でしょうか、しんどいのに、こんなにざわつくのに目が離せないのは。


登場人物たちの痛みは「何かとうまくいかない人」にとっては身に覚えのあるものばかりで、時にフィクションを読んでいるという感覚以上のダメージを受けてしまうことももあります。
そんなダメージが癖になってしまう自分はやっぱりおかしいのだろうか、という不安をこの作品は否定も肯定もしない。
うまくいかない”私”を、包み込むわけでもなければ共に歩いてくれるわけでもない。ある意味では淡々とした漫画。
この『空が灰色だから』の凄さというのは、あくまでこれが「日常漫画」の枠を飛び越えないというところにあります。
たいそうな大事件を描いていないのに表現力で確実に心をひっかきまわす、それこそが阿部共実先生の凄み。



そんな阿部共実先生の無類の才能、
その特異な才能を抑えつけることなく本連載のゴーサインを出した週刊少年チャンピオン編集部、
そして支持し続けるチャンピオン読者に、
わたしは勝手ながら誇りすら感じています。
チャンピオンでなければあり得なかった。
早くも話題にはなっていますが、未体験の方にはぜひとも一度覗いてみていただきたいと思います。



自分としては、こうしてまとめて読み返してみると一番好きなお話は第3話「空が灰色だから手をつなごう」だなあ、と。
母子家庭の物語というテーマ自体週刊少年誌としては異端のものではないかと思いますが・・・・。
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また1巻のラストが一部で物議を醸した「ガガスバンダス」なところもニクい。
参考リンク:ガガスバンダス - Togetter
『空が灰色だから』の中でも異端と言えるこの回は画面構造の面白さと会話の意味不明≒意味深さで何周も読んでしまう魔の回。
考えても考えても答えが見つからないのにそれでも考えてしまうこの回の魅惑の不可解さは神がかってます。



過去エントリ
漫画脳:阿部共実先生の新作『空が灰色だから手をはなそう』がスゴいからチャンピオンをよもう