『天使の裁量』いとだまる/増刊ヤングガンガン掲載・ヤングガンガンシリーズ連載中
かつて増刊ヤングガンガンに掲載され、今はヤングガンガン本誌でシリーズ連載されている『天使の裁量』がついに単行本になりました!
以前にもこのブログで記事にしたことがあるのですが、『天使の裁量』以前から作者であるいとだまる先生の読切作品が大好きだったのでまさに待望の単行本化です。


運命の選択を目の前にした人間を正しい方向へ導く役割を持つ天使たち。
しかし、天使「クロマ」はものぐさ者で、これまで関わった人間を一度も正しい方向へ導いたことがありませんでした。
合理的に決断せず、悩んでばかりいる人間たちの性質を理解できず面倒くさがるクロマですが、天使長から”これから課せられる100のノルマをすべて正しい選択へと導かねば天界追放”と宣告されたため渋々ながら迷える人間たちの元へと向かいます。


ひとつひとつのノルマが1話読み切りで描かれるため、物語の主人公や舞台も毎回まったく違うものとなります。固定キャラはクロマや天使長といった天使たちのみ。
クロマは人生の岐路に立つ人間たちの同僚や後輩といった近しい立場の人間として潜入しつつ迷いを聞いたり、助言を与えたりすることで正しい方向へと導く仕事を果たします。
はじめは人間の面倒くささをただ否定していたクロマですが、そうやって近くで彼らの悩み生きる姿を見守ることで徐々に人々が生きていく上で本当に大切なものに気が付き始めます。


収録されている物語は、妻子を持つサラリーマンが脱サラしてパン屋を継ぐべきか否か悩む話だとか、息子(夫)を亡くした姑と嫁の話だとか、比較的重い題材も多いです。メインで描かれるキャラクターも中高年であったり。
それらの題材はヤング○○系の雑誌としては少々地味ともいえる設定ですが、そこはシリーズのナビゲーターでもある天使「クロマ」の飄々としたキャラクターを通して描くことで作品全体の空気を若々しく保っています。


正しい選択へと導く…といってもクロマがするのはあくまでも人間として近づき、迷い悩む人間の決断をうながす問いを投げかける程度(天使らしい力を使うのは本来その場に存在しない自分がそこにいることを人間たちに疑問に思わせないよう催眠的な能力を発揮する程度というケースが殆ど)。
何が正しい、と天使であるクロマが決めるわけではないので説教臭さがないところも好印象。人々が悩みを乗り越えて明るく前を向き、時にはクロマ自身も予想外の人間たちの言動を受けて成長していく爽やかな連作です。


1巻に収録されている中では先述の姑とお嫁さんの話がいちばん好きです。
最愛の息子、そして最愛の夫を亡くした2人。衝突ばかりの2人ですが、それは互いにこれからのことを想って前を向いて生きていくためだった。みんながハッピーになる為のハッピーエンド。こういう物語をサラッと描いてしまう…いや、こういう物語を描く上での苦労を感じさせない作品に仕上げてしまういとだまる先生の手腕に脱帽です。端正なのに柔らかい描線も人々のぬくもりが伝わってきてグッドなのですよー。


単行本化&ヤングガンガン本誌でのシリーズ連載化が大変うれしいかぎりです。新人作家ながらかなりのストーリーテラーないとだまる先生、この『天使の裁量』はドラマ化してもいい作品なのじゃないかなと思うくらいです。日常生活に疲れた大人におすすめの一冊です。