『弱虫ペダル』渡辺航/週刊少年チャンピオン連載中
舞台第2弾、そして週刊少年チャンピオン誌上で『弱虫ペダル SPARE BIKE』という外伝的な位置付けになると思われる作品とのW連載開始が発表…と話題に事欠かない『弱虫ペダル』24巻が発売となりました。
”総北のエース”という看板を背負う覚悟を決めた今泉が先頭をひた走り、その後ろを虎視眈々と追い続ける”王者”箱学の福富。
総北と箱学の一騎打ちになるかと思われた勝敗の行方。しかし後方から加速を続ける京都伏見・御堂筋の姿が。迷うことなく先頭へ近づきつつある御堂筋を止める役目を担い飛び出したのは箱学の1年生クライマー真波山岳。そして、エース今泉を守る打つ手は最早ないかと思われた総北は何度も想定外の成長を見せてきた”最強の初心者”にすべてを託し、坂道は先を行く御堂筋と真波を捉えるためにひたすらペダルを回し続ける…!
先頭を狙うこととなる選手の殆どが1年生…しかも坂道はほんの数か月前にロードレーサーに乗りはじめたばかりのド初心者ですからね。現実味を追求するには難しいところですが、「少年漫画」としては夢のある展開だと思います。
さてこの巻、坂道の超越初心者ぶりも目を見張るところではありますがやはり注目すべきは御堂筋VS真波です。
御堂筋という男は『弱虫ペダル』連載開始当初から今泉が倒すべき相手としてその名を出していました。それでいて実際に作中に姿を現すまでには「溜め」の時間があり、その効果もあって初登場シーンでは強烈な第一印象を読者に植え付けました。
顔つきからポージングにいたるまで不気味で得体の知れない存在としての演出が徹底されていて『弱虫ペダル』の中では異端のキャラクターであるとも言えます。
しかし「得体の知れない存在」としての描写表現が過剰なまでに行われる御堂筋に反して、実際に現在の作中で最も「得体の知れない存在」である人物が真波であるともいえます。
彼の場合は、一見すると爽やかな風貌でありながら徹底して「何を考えているかわからない」ところが大きな特徴。エース福富を守れ、という指示を受けた現在ですら本人の意思がまったくといっていいほどわからない。ただわかるのは、限界ギリギリの勝負というものに対する執着くらいのものです。
真波の得体の知れなさというのはただ私が一方的に感じているのではなくある程度狙って描かれているものと思われます。
というのも、ここまでインターハイの中で各選手の背景として描かれ続けてきた回想シーンが全くと言っていいほどなかったのがその所以です。
回想シーンの多さは良くも悪くも『弱虫ペダル』の特徴ともいえる部分で、少なくとも総北、箱学のメインキャラクターたちや京伏の御堂筋・石垣、広島呉南の待宮らについてもそれぞれの思惑、このインターハイにかける想いなどについて描かれてきています。特に御堂筋はこの「回想シーン」によってここまで勝利に固執する理由が明かされ不気味さの中に人間味を感じさせるようになりました。
それが真波には一切ない。もちろんこれから描かれるのかもしれませんが、この局面に至るまで自転車やインターハイ、自分の学校へどういった想いを抱いているのかがまったくわからず、それでいてここまで本気の闘いに執着し、それに自分の「生」までを投影しているというのはやはり不気味と感じてしまいます。それも演出だと思うのですよね。
御堂筋と真波、本気で限界の闘いに身を投じることに対しての姿勢はある意味では近いといえる存在なのかもしれません。強いていえば御堂筋がこだわるのは「勝利」で真波がこだわるのは「闘い」といったところでしょうか。
坂道は自分自身が(個人が)闘いに身を投じることや勝利することにはいまだ執着がありません。ただ自転車が好きだという気持ちと、仲間のためにという気持ちで回し続けているという状態。彼にとっては自転車は仲間、友達と通じ合うための手段ともいえるわけですし本気の闘いを繰り広げる2人と肩を並べ走るということがひとつの大きなコミュニケーションとしての喜びにも繋がっています。それこそが坂道の凄さでもあるんですけれど…。
最強すぎる初心者の坂道ですが、総北のメンバーが他に誰ひとり欠けてもこうは成長していなかったことでしょうね。
仲間の一人一人に思いを馳せながら愚直なまでに御堂筋・真波の2人に張り付き続ける姿はやはり主人公の主人公たる風格すら感じさせます。
トップゴールを目指すそれぞれの最終局面に注目していきたいと思います。
そして今回の巻末にはチャンピオン誌上にカラー袋とじで掲載された坂道と巻島さんの日常ほのぼのまんがも収録されております。
まーーーーーやはり渡辺先生のコメディは逸品と感じさせる一幕なのでぜひとも。テンポといい、会話のノリといい大好きです。坂道が「どうしました」ってキラキラしてる顔がすごくかわええ。SPARE BIKEがこういうノリだと嬉しいんだけどなー…どうなるんでしょ。
過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
漫画脳:インターハイ開幕!疾走感、御堂筋、そして腹筋(アブ)へ… 『弱虫ペダル』9巻(渡辺航)
漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
漫画脳:心理戦の限界を超えた先に 『弱虫ペダル』15巻(渡辺航)
漫画脳:捨て行くものと信じるもの 『弱虫ペダル』16巻(渡辺航)
漫画脳:”チーム”の形は一つじゃない 『弱虫ペダル』17巻(渡辺航)
漫画脳:過去、決別、純粋な強さ 『弱虫ペダル』18巻/渡辺航
漫画脳:そしてついに出逢った2人 『弱虫ペダル』19巻(渡辺航)
漫画脳:主人公を成長させるのは 『弱虫ペダル』20巻(渡辺航)
漫画脳:一つの絆の境地 『弱虫ペダル』21巻(渡辺航)
漫画脳:総北ジャージは真の「完成形」へ 『弱虫ペダル』22巻(渡辺航)
漫画脳:誰よりド派手に赤く燃え上がれ!総北高校の”赤いマメツブ” 『弱虫ペダル』23巻(渡辺航)
『弱虫ペダル』・坂道から消えたのはオタク魂ではなくて
漫画脳:描き文字に見る、渡辺航先生イズム
『弱虫ペダル』 小野田坂道と御堂筋翔~最も近くて、最も遠い2人
漫画脳:【超速報】舞台「弱虫ペダル」を観に行ってきましたよ!
コメント
コメント一覧 (2)
ご指摘ありがとうございます…修正しました。
なぜ2回も…
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。