現在勤めている書店にやってきたのが2010年の10月なのですが、勤務開始から1か月弱で文庫担当に任命されて早2年が過ぎました。文庫と名のつくものは一般文芸ジャンルから雑学文庫、ライトノベル、そしてコミック文庫まで全般を管理しているのですが実はわたくしまったく小説を読まない人間でした。



とはいえそんな自分でも文庫を担当することは可能でした。担当を続けていればこの作家がどのくらい売れる本かということは大体分かるようになりますし、自店での消化やメディア化やクチコミで話題になっているタイトルに目星をつければ次に何を仕掛けるか考えることも出来ます。
でも、やっぱりそれだけじゃ味気ないのではないかという気持ちもどこかにずっと引っかかっていたのです。まったくといっていいほど小説に触れてこなかった自分でも、数多の文庫本を管理しているうちに気になる本はいくつか出てくるものです。自分が面白いと思える本に出逢えた方がよりいっそう文庫本を扱うことが楽しく、尚且つ良い売り場を作れるようになるのではないか…そう思い、担当に就いて2年という月日を経てようやくではありますが、まずはラノベからいくつか手を出してみることに致しました。



そしたら、まあ今までなんで読んでいなかったのだろう!というくらい楽しめてしまって。というわけで、この1か月ほどで読んだラノベを簡単に紹介させていただきます。
(10月の頭から少しずつ読み始め、シリーズ物もまだ1巻のみしか読んでいませんがご了承ください)




『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』竜ノ湖太郎(イラスト:天之有) 角川書店 スニーカー文庫

特殊な能力を持ちながらも、退屈な日常を過ごしていた逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀の3人。
彼らは一通の手紙により「箱庭の世界」と呼ばれる異世界へと召喚されます。
手紙の差出人はウサ耳の少女「黒ウサギ」。黒ウサギの言うことには、彼らの持つ異能…「ギフト」と呼ばれる能力をもってこの世界では重要なルールである「ギフトゲーム」に挑んでもらいたいという話。
…実は黒ウサギの本当の狙いは、自分が属する”コミュニティ”…この世界で生活するにあたり必ず属さなければいけない団体…の危機を強力な「ギフト」の持ち主である3人の力を借りて立て直すことでした。

2013年1月からテレビアニメ化も決定している既に人気のシリーズですが、前から表紙のイラストが可愛いな~と思っていたいうことと、帯やPOPで喋ってるキャラクターのノリが好みだったので手をのばしてみました。
能力も境遇もバラバラな3人が黒ウサギを弄り倒しながらも大事なところでは力を合わせて敵に対峙していきます。問題児×3のイビリに突っ込む黒ウサギ、といった図式が基本のコメディかと思いきや意外と敵が本格的な外道であったりそれに対する制裁も結構ガチでちょっと驚き。
十六夜が問答無用の最強オレ様キャラではあるんですがそういったキャラにありがちな嫌味さはあまりないところが良かったです。皆可愛いけどなかでも黒ウサギが苦労人可愛い。




『魔法少女育成計画』遠藤浅蜊(イラスト:マルイノ) 宝島社 このライトノベルがすごい!文庫

N市界隈で頻繁に目撃されるようになった「魔法少女」たちの存在。
彼女たちは元はソーシャルゲーム「魔法少女育成計画」のいちプレイヤー、普通の人間たちでした。
ある日突然一部のプレイヤーの前にマスコットキャラクター「ファヴ」が目の前に姿を現し、ゲーム内で操作していた「魔法少女」アバターのキャラに実際に変身してしまう能力を授けられます。
元の姿(それが少女であれ、大人であれ、はたまた男であっても)とは似ても似つかぬ現実離れした魔法少女の姿に変身し、それぞれに一つだけ授けられた魔法で人助けをしていた彼女ら。
それぞれの思惑がありながらも魔法少女としての生活を受け入れていた彼女たちに、ある日突如ファヴから魔法少女の数が増えすぎたため半分に数を減らす、との通告が。
そのために各人の善行の数だけ増えていく「マジカルキャンディー」の少ない順に一人ずつ脱落していく、という方式がとられます。
しかし、そこから脱落するということイコール人間としての「死」が訪れるということであると判明し、魔法少女たちに戦慄が走ります。
かくして、輝かしく、人々を助ける存在であるはずの魔法少女たちによる無慈悲な殺し合いが始まるのでした…。

可愛らしいイラストと帯に書かれた衝撃的なあらすじのギャップに惹かれて購入しました。
全16人の魔法少女たちはそれぞれ可憐で異なった魅了を持っていて、本当にこんな可愛い少女たちが殺し合いをするなんてとんでもないわー!という感じです。
そのうえ彼女らには人間としての生活や人生があるわけで、魔法少女になり殺戮ゲームに巻き込まれたことへの焦燥や葛藤も詰め込まれています。ひたすらカワイイ視覚的な部分とのギャップが凄い。
いかんせん登場人物が多いため視点や心情描写があちらこちらに飛ぶ点だけはちょっぴり読みづらかったですが落ち着いて読み進めれば問題なかったです。それだけ数多くのキャラクターの想いが行き交っているところが魅力でもあるし。
マスコットキャラクターの憎らしさとかを見ているとまどマギから受けた影響が強いのかな~?とまどマギ知らない自分でも思ったり。
次に誰が死ぬか、誰が生き残るか割と予想がつかなくてドキドキハラハラしながら読みました!
ベタなところですがトップスピードとリップルの関係が好きだ…スノーホワイトとラ・ピュセルも…。
いい子なのにいろいろ報われないたまもお気に入り。




『BIG-4』大楽絢太(イラスト:ワダアルコ) 富士見書房 富士見ファンタジア文庫

ごく普通の高校一年生であった「ぼく」こと山田。
何故かある日突然、魔界の四天王になってしまっていた!
元の世界に戻るには、魔界の人類抹殺計画を進めて魔王を目覚めさせ、その魔王を倒すしかないらしい。
何の特殊能力もないただの人間であることを周りに悟られないよう、人類抹殺計画を進行しようとするも他の四天王…「雷のアーディンブルグ」「雪のヴォルフォレカ」「焔のイグナレス」はまったくやる気がない様子。
山田は一人やきもきしながらも、最強なのにどこかしら残念な四天王のメンバーをまとめつつ人間界からまぎれこんできたファミ●ンにいそしんだり、モンスターの恋愛相談にのったりとユルい日常を過ごすのでした…。

異世界系+魔王系+残念日常系という王道&流行路線のおいしいところをもってきたような設定が面白そうだったので購入。
会話メインでめちゃくちゃサクサク読めました。今回手に取った中ではいちばんユルい作品。小説っぽくはない!けど会話自体が楽しかったし気楽に読めるのも良いです。
パロディネタが多いところはあんまり好みではないのですが…気になって読みたくなくなるというほどではなかったので。
魔界の四天王なのに妙にめんどくさかったり、義理堅かったりする性格の彼らがなんだか愛おしくてほっこり。
でも一番可愛かったのは山田だった…。




『こうして彼は屋上を燃やすことにした』カミツキレイニー(イラスト:文倉十) 小学館 ガガガ文庫

突然大好きな彼氏・アメくんに振られてしまった加奈。
失意に包まれ、学校の屋上から身を投げようとするとそこには奇妙な先客たちが。
お人形のように可憐な容姿で笑顔を放ちながら無遠慮な物言いの少女。
愛想の良い笑顔で話しかけてくるもやしのようなひょろ長い少年。
初対面にもかかわらず、無慈悲な言葉を浴びせてくる眼鏡の少年。
それぞれを「オズの魔法使い」の登場人物になぞられて脳みそのないカカシ、勇気のないライオン、心のないブリキと自称し呼び合う彼らもこの屋上には死ぬために訪れていたといいます。
しかしその前に彼らは「復讐」をしようとしている…というのです。
自殺を止めるわけでもなく、「復讐」という物騒な言葉で誘い入れた彼らとその後も屋上で過ごすようになった加奈は「オズの魔法使い」の主人公「ドロシー」を演じるようになるのですが…。

”失恋””自殺””復讐”…とネガティブなキーワードのオンパレードで幕を開ける作品。
最近長いタイトルが流行っていますが、こんなに「これはどういうことなんだ?」と思えたタイトルはそうそうなかったです。
加奈はほぼ屋上でのみそれぞれの素性も知らぬまま過ごしていたカカシ・ライオン・ブリキの素顔や普段の生活を徐々に知ることになり、最初はそのギャップに戸惑いながらも彼らを救うために奮闘していきます。
…実にそれは「お節介」ともいえる行動ですが、そんな風に首を突っ込む加奈ことドロシーの影響で3人も少しずつ変化し、成長していきます。そして、そうすることによって加奈自身も変わっていきます。
開幕のネガティブイメージからは想像もつかないほどに気持ちの良い読後感でした。素晴らしかった!
これはライトノベルという枠に押し込めず、広く読まれて欲しいと思える作品でした。映画化とかしてほしい。
ちなみにまったくの偶然ですが、この本を読んだのが11月3日で作中におけるもっとも重要な日付と同じ日だったのでびっくりしてしまいました。



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自分が手に取った基準をまとめると、
一冊で完結している、もしくは現在のところまだ長期シリーズ化していないもの、剣と魔法のような正統派ファンタジー以外、恋愛系・ハーレム系・エロ系以外…という感じです。
こうなるとド王道や売れ筋は結構外れてくる気もするのですが…実際読んだ作品はどれも面白く読めました。よかったよかった。

どうやら恋愛ものにならない男女混合ものがツボなようです…漫画ではあまり意識した事のない好みだったので、漫画で読むのとラノベで必ずしも趣味が一致しないものなのかもなー、と思ったり。

なんか最近のラノベはエロばっかり!というイメージが広がっている気がするんですが毎月山ほど出版されるラノベがエロばっかりってことはありえないわけですよ…文庫担当者としてもずっとそう思っていました。
実際幾つか手に取ってみて、色々なジャンルで面白い作品があることを実感出来て嬉しい思いです。


ゆっくりペースですが、これからはたまにラノベ感想も書いてみようかな…。
長くなってしまいましたが読んでいただきありがとうございました!