『弱虫ペダル』渡辺航/週刊少年チャンピオン連載中
『弱虫ペダル』26巻が発売されました。今回の表紙は真波山岳。いま、まさに坂道と最後の死闘を繰り広げているその人であります。
本誌ではこのインターハイの勝敗もついて新展開へ突入しているわけですが、単行本では決戦の最中です。


自らの生を重ねて、誰よりも早く坂を駆け上がる真波。元々何を考えているかもわからない、謎が多い一年生で、箱学の先輩たちすらもその本質を理解しあぐねていたようでした。しかし人となりや性格ではなく同じ「クライマー」としてシンパシーを感じていた人間が一人。そう、箱学3年でエースクライマーの東堂です。
東堂は箱学主将・福富とはある意味真逆のアドバイスを真波に送っていました。東堂は「クライマー」という”生き物”としての本質を…自らも同じ道を生きる者として理屈抜きで捉えていたのでしょう。結果的に誰彼の言葉に耳を傾けるようなタイプではない真波が心から凄いと東堂の事を評価しています。
ただし福富は真波の事を理解していないから真逆のアドバイスを送ったのではなく、どこかで感じ取っていたからこその言葉だったのでしょう。福富はおそらく主将としても先輩としても、レースの事、学校の事、そして真波自身の将来をも考えての助言を彼に授けたのだと思います。それもおそらく間違いではない。
福富が感じ取った真波の本質、それは「頂への渇望」。誰よりも早く頂上の景色を…と言う真波の瞳の前ではそれを求める理由などは些末な問題でしょう。東堂が「クライマー」としての本質を真波に見据えていたように、福富は「強者」として彼にシンパシーを抱いていたと思えます。


一方、坂道の「本質」に思いを馳せるのは総北2年生の手嶋。坂道がクライマーとしての力を発揮するのは「追いかけてる時」と断言するのは身をもってその力を感じている経験があるからこそです。
そしてまた一方で坂道の本質を思い知り、そして本人よりも誰よりもそれを理解していたのが…京都伏見・御堂筋でした。
実況によって伝わってくる「がんばってる」「苦しそう」という坂道の状況を普段通りキモォと一蹴する御堂筋。彼は知っていたんですね。インターハイ2日目の夜、偶然の出会いによって共に走った坂道の「自然の走り」を。坂道は…「笑っている時」こそが早い。
坂道は何故追いかけている時が早いのか。それは一人よりも誰かと走るのが好きだからです。ずっと「一人」をこじらせてきた不器用な少年であった坂道は自転車で仲間を、友達を得てその喜びを知りました。追いかけているというのは、辿り着けばその相手と共に走ることが出来るからです。だから「笑う」のです。彼の声が小さいとか。喋るのが苦手だとか。そういった一切を払拭してコミュニケーションが出来る瞬間だからです。


一度は引き離された坂道が真波の姿を捉えた。…他人が見れば異様ともいえる状況で花の咲くような笑顔になる坂道。使命感にがんじがらめにされた苦悩ではなく、彼の原点とも呼べる「楽しさ」を感じている。まさに今、本当の力が引き出されようとしているのです。
真波、坂道共に真の力が引き出される最高の状態での頂上決戦。己の生そして人生を集約させた走りがぶつかり、まさしく「死闘」と呼ぶに相応しい。決着はもうすぐです。


取り繕っても仕方がないので、本音を書いてしまいますと…実は今巻はいささか冗長気味に感じてしまった部分もあります。いままで「本誌を読んでいると話が進んでいないように感じるけれど、単行本で読むと丁度良い」と感じて来たのですが…。
渡辺先生の作品に関してはほぼ狂信的な想いで読んでいる自分がそう感じてしまったことに自分自身でショックを受けてしまいました。既に決着までを読んでしまっているからかもしれません…が。最終局面で本当に良いと感じた場面が悉く未収録の部分だったということもあります。といっても、無駄な場面があるとは決して感じていませんので…何とも難しい。最高潮の決着に向けての準備段階の巻と捉えると丁度良いのかもしれません。



過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
漫画脳:インターハイ開幕!疾走感、御堂筋、そして腹筋(アブ)へ… 『弱虫ペダル』9巻(渡辺航)
漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
漫画脳:心理戦の限界を超えた先に 『弱虫ペダル』15巻(渡辺航)
漫画脳:捨て行くものと信じるもの 『弱虫ペダル』16巻(渡辺航)
漫画脳:”チーム”の形は一つじゃない 『弱虫ペダル』17巻(渡辺航)
漫画脳:過去、決別、純粋な強さ 『弱虫ペダル』18巻/渡辺航
漫画脳:そしてついに出逢った2人 『弱虫ペダル』19巻(渡辺航)
漫画脳:主人公を成長させるのは  『弱虫ペダル』20巻(渡辺航)
漫画脳:一つの絆の境地 『弱虫ペダル』21巻(渡辺航)
漫画脳:総北ジャージは真の「完成形」へ 『弱虫ペダル』22巻(渡辺航)
漫画脳:誰よりド派手に赤く燃え上がれ!総北高校の”赤いマメツブ” 『弱虫ペダル』23巻(渡辺航)
漫画脳:「得体の知れない男」たちの本気の闘い 『弱虫ペダル』24巻
漫画脳:少年たちが成長するとき 『弱虫ペダル』25巻(渡辺航)

『弱虫ペダル』・坂道から消えたのはオタク魂ではなくて
漫画脳:描き文字に見る、渡辺航先生イズム
『弱虫ペダル』 小野田坂道と御堂筋翔~最も近くて、最も遠い2人

漫画脳:【超速報】舞台「弱虫ペダル」を観に行ってきましたよ!