『ハーベストマーチ』フクイタクミ/週刊少年チャンピオン連載
大好きな作品の終了は何度迎えても慣れないものですが、その中でも近年でもっともショックが強かったのは週刊少年チャンピオン連載『ケルベロス』だったと思います。
その『ケルベロス』作者であるフクイタクミ先生が週刊少年チャンピオンに帰ってきました。たとえ他誌であっても、大好きな作家様の新作が読めるのは嬉しいことですがそれが「週チャン」というステージであることにより幸せを感じます。


6年前、幼くして両親を病で失い、2人で身を寄せ合い暮らす姉弟。働き者で強く優しく、誰にでも好かれるノイエに守られて暮らす弟のクゥバンテ。姉に比べてあまりにも弱々しく、まともに仕事ももらえない自分を疎ましくすら思っていたクゥにふと声をかけたのは村の子供たちのリーダー格の少年、シイド。シイドは今の自分に満足しているとはとても思えないクゥに対し、「変わりたいなら俺について来い」と誘いかけます。
自分を愛してくれる姉のためにも、強い自分に変わりたいと考えたクゥはシイドと村の子供たちと共に、「禁じの森」と呼ばれる立ち入り禁止の領域に足を踏み入れます。
シイドの目的は危険な森の奥に存在する「天使の胎」と呼ばれる物体。天使の胎の中で人間は「力」を得られると聞き、クゥはシイドらと共に足を踏み入れます。誰よりも大切な姉の為に、強い自分になる為に…。


元は「天使の胎」は天から人間を見守っていた天使が、その愚かさに泣き腐れ果てた残骸。それによってもたらされた「力」とは、人間たちを殺戮するための恐ろしい力…そして人間は天使の為の「騎士」へと生まれ変わります。
クゥバンテは、完全にその使命を刷り込まれる前に胎から脱出したため、人ならざるその能力を与えられながらも天使への忠誠ではなく、姉のノイエの為だけの「騎士」となることを誓います。
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「騎士」と化したクゥバンテは普段の気弱さからは想像もつかないような剣幕でノイエを傷つける相手に対しての怒りをあらわにし、汚い大人たちや騎士と化して村人を襲った少年たち…ノイエを恐怖に陥れた者には容赦ない制裁を加えます。
しかし一度戦闘モードから解放されたクゥバンテはいつも通りの繊細で、弱々しい少年。強大な力をもたらされても、それは彼にとっては望まぬ力であるためどこか作品自体に深い悲しみを感じさせます。人ではない能力で敵対するものへの攻撃を繰り返しても尚、クゥの手のひらはあまりにも小さい。
(そんなクゥバンテの姿には、チャンピオン的な意味というわけではないですがファンタジー版『魔太郎がくる!!』的なイメージが多少。)
しかし小さな手が汚れていくような悲しみを帯びながらも、たとえどんな姿であっても彼を信じ、愛してくれるたった一人の姉の存在の大きさには安堵させられるのです。


騎士と化した少年たちに村を襲われて自分たちだけは助かろうとする村の大人たちの醜い姿なども相当キツいですし、残虐描写もかなりきわどい、オマケにクゥバンテの「どうかしてるくらい心の底からこの世界でお姉ちゃんだけを愛している」宣言などあくまで王道な少年漫画を貫いた『ケルベロス』と比べるとあらゆる意味でリミッターを外してきたな、というのが正直な印象。どちらが優れている、というわけではないのですが、念の為。
作品を象徴するシイドの台詞「お前の中に醜く凶々しい本性が潜んでいたとして それをお前自身が忌み恥じていたとしても それはお前をきっと裏切らない…」は、作品をというよりはフクイタクミ先生の作家性をあらわしているように感じます。残虐描写であったり、人間の醜い本性であったり、濃い性癖であったりとか。どぎついものも含めてすべて。そういった(目を背けたくなるような)表現があってもそれはフクイ先生が描く世界に、キャラクターに真正面から向かい合っているからこそであり。そんな姿勢が作品から滲み出ているからこそ自分はフクイタクミ先生の作品を応援するしか選択肢がないとあらためて思ったのでした。


正直にいうと『ケルベロス』が好きすぎるがあまり、『ハーベストマーチ』の世界観を受け入れるのに時間がかかりました。でも今は心の底からこの新しい世界を楽しんでいます。