『アリスと蔵六』今井哲也/コミックリュウ連載
特異能力少女と頑固爺の出逢いで始まった不思議で温かい物語『アリスと蔵六』第2巻。
物心ついたときには既に”研究所”と呼ばれる機関の中に居た超能力少女・紗名。彼女は単身研究所から脱走して蔵六たちと出逢ったものの、研究所からの追手についに捕えられてしまいます。そして彼女にとって辛い事実が現実として知らされ、早くも大きなピンチが訪れます。


追手としてやってきたのは”アリスの夢”能力者の一人、ミリアム・C・タチバナ…通称ミニーC。亡くした夫の巨大な「腕」を顕現させる強力な能力によって紗名を抑えつけます。
そして紗名が知るのは、自分が人間ですらないという事実。単に自分が何者か分からない…のではなく、元々が人間ではないということ。突如現れ、周囲の生物の思考や反応を読み取って現実化するだけの「現象」であるということ…。
恐怖とショックで混乱する紗名が救けを求めてその能力で呼び出したのは、外の世界に出てからまだ出逢ったばかりの頑固爺さん、蔵六でした。


まだ謎だらけの”アリスの夢”という能力、そして紗名という存在。想像の及ぶ限りの願いを現実化させることが出来るその能力だけでも周囲が放ってはおかないというものでしょうが、その生い立ちこそが一つの現象であるという事実があるのならなおさらでしょう。しかし様々な機関、そして個人の思惑が飛び交う中に確かにあるのは紗名という名の小さな少女が不安で泣いているという事実なのです。彼女を取り巻く理屈や理論を飛び越えたところで一人の人間、一人の子供としてその苦しみを理解することが出来るのが「ただの人間」である蔵六爺だったのでしょう。


もはや自分自身すらも次から次へと実現化する能力の人間離れぶりに「私はバケモノなんだ」と認めるしかなかった紗名。しかし蔵六はそんな事も些細な問題と考えます。どんな理由があったとしても乱暴な手段で自由を奪おうとする”研究所”側のやり方を肯定することはせず、出逢ってからのわずかな間に見てきた紗名の人間性を認める頑固な優しさ。紗名にとっては初めて触れる保護者の温もり。人類誰しもが羨むような能力を持つ少女が最も欲していたものは、人間の根源的な安心や優しさだったのかもしれません。
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”アリスの夢”たちの持つ能力も様々で、異能同士のぶつかる戦闘シーンも見応えがありますが、能力者たちそれぞれの背負うものや人生がしっかりと設定されているのも魅力です。SFファンタジーというジャンルである以前に、人情ものでもあるのかな。古式ゆかしい頑固爺の蔵六というキャラクターの存在は大きいですが、主人公にあたる紗名から脇役にいたるまでそれぞれが物語を持っている漫画という印象が強く。カバー下を見て、一層そんな気持ちが強くなりましたね。まさかここの話も続いてくるとは!ニヤニヤしちゃう。


2巻にして相当に危機的な状況に直面して、でもそれを乗り越えて本当の「家族」になった紗名と蔵六、そして蔵六の孫娘の早苗。まだまだ”アリスの夢”自体の謎や各組織の思惑も明かされていない部分が多いですが、紗名がこれから一人の「人間」として成長していくであろうことが既に作中で示唆されていることはどこか安心感にも繋がっているのかなと思います。今ホントに続きが楽しみな漫画です。


雑食商店街3373番地:異能使い少女×頑固爺…交わるはずのなかった個性がぶつかった! 『アリスと蔵六』1巻(今井哲也)