『薄花少女』三浦靖冬/月刊IKKI連載
実家を離れて一人暮らしで働く青年の家に、突如見慣れぬ少女の姿。見た目はまるきり子供な彼女は、青年に対して訳知りの様子で「ぼっちゃま」と語りかける…。


快楽天時代から大好きな三浦靖冬先生の最新作がIKKIで連載開始と知って狂喜しましたが、このたびとうとう単行本が発行されました。単行本は秋田書店刊『えんじがかり』以来でもう3年近くぶりになるのですね…(えんじがかりの続き…読みたかったなぁ…とぽつりとこぼしつつ)。


古糸 史(こいと ふみ)が見たのは不思議な夢。自分が幼い頃の実家での夢で、話し相手は家政婦の夏焼鳩子(なつやきはとこ)さんこと、「ハッカばあや」。しかし夢の途中から、ばあやの姿はセーラー服の少女姿にいつしか変わっていました。さらに、目を覚ますとそこには夢の中で出逢ったままの少女の姿が…。
実は彼女こそが本物のハッカばあやで、単身家を離れた「ぼっちゃま」を心配し、とうとう家までやってきてしまったというのです。彼女曰く、滋養強壮剤と思われた薬で突如若返ってしまったというにわかには信じがたい事態のままで。そうは説明されても御歳数えで八十歳のはずのばあやと目の前の幼い少女の姿が一致するわけもなく始めは混乱する「ぼっちゃま」ですが、共に行動し、作りたての温かいご飯を食べ、世話を焼かれているうちに次第に彼女が自分の慣れ親しんだばあやであることを受け止め始めます。そして見た目は「青年と少女」、しかし実際は「ぼっちゃまとばあや」という奇妙な2人の同居暮らしが始まります。


何よりこの作品の魅力は…というと、とにかく小難しい事は置いておきたくなるくらいにハッカこと鳩子さんが可愛らしいこと。
見た目は幼くとも、中身は歴戦の家政婦。鳩子さんは炊事洗濯のみならず簡単な大工仕事等々なんでもこなしてしまいます。でも、やはり中身は80歳のおばあさんだからちょっぴり忘れっぽかったり、説教くさかったりもして。単に可憐な姿でなんでも出来るスーパー幼女、というわけでなくてどこかしら年寄くささ、みたいなものが滲み出ている。そんなところが可笑しくもとっても可愛らしいです。
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作中では鳩子さんは物心ついたときから現在に至るまで働き続けてきたが為に、少女の時代に子供らしいことをほとんど出来ていないという事がたびたび匂わされます。ストイックで働き者、すべてはぼっちゃまの為にというある意味では頑固な彼女が、何の因果か少女の姿でぼっちゃまと2人暮らしをしていく中でふと本当に「少女のように」、「少女らしく」過ごせる瞬間を迎える。その瞬間、本来の自分を失った寂しさのようなものと、それまでに得られなかった小さな喜びの数々が同時に満ちていく感覚は読み手の心にも不思議なやすらぎを与えてくれます。これはこの作品でしか得られない、唯一無二の優しみでしょう。


繊細且つ綿密なタッチで描かれる風景、街並みもどこか懐かしく迎えてくれます。このクオリティを維持する為なら隔月連載もやむなしというもの。これからもゆったりゆっくりと2人の生活を見守ってゆきたいものです。


しかし「夏焼」鳩子さんでピンと来る人もいるとは思いますが三浦先生、ハロヲタ隠さないぶりが凄い。この件に関してはまた別の記事で書きたいなあと思っております。


公式リンク:http://www.ikki-para.com/comix/hakkashojo.html