『3LDKの花子さん』丸山哲弘/週刊少年チャンピオン連載
前連載では沖縄のご当地ヒーロー『琉神マブヤー』のコミカライズを手掛けていた丸山哲弘先生の最新作『3LDKの花子さん』の単行本が発売されました。
『マブヤー』はオリジナルストーリーとはいえ既成キャラクターを描く物語であったため制約も多かったのであろうなと伺える部分もありましたが、今作はのびのびと描かれたコメディになっています。


あらゆる霊現象に悩まされていたため、風水等の影響を考えて全面リフォームした小野寺家。新しくなっておばけも出なくなったと喜んでいたのもつかの間、小野寺家の息子・信(まこと)くんの部屋には見知らぬ少女とおばけ達が。
赤いはんてんを着た少女はざしきわらしの花子さん。元は小野寺家のトイレに住みついていた”トイレの花子さん”だった彼女は、リフォームのお陰でトイレだった場所が信くんの部屋になってざしきわらしという神さまに出世したのだといいます。そんなこんなでざしきわらしの能力を使って小野寺家に恩返ししたいという花子さんと、小野寺一家の同居生活が始まったのでした。


ざっくりいうとドラえもん直系の居候系コメディといったところでしょうか。それプラス、妖怪・おばけがもりだくさん登場します。
花子さんの能力は、物にお願いをするとその物たちが意思をもっておしゃべりをしたり力を発揮したりしてくれるというもの。しかし物たちにも個性的な性格が宿っているためにどーにもこーにもうまく事が運ばないことが多く、役に立つどころか事態をややこしくしてしまうことのほうが多いくらい。それでも役に立ちたい、みんなをしあわせにしたい一心で花子さんはがんばります。
とにかくそんな健気な花子さんがめちゃくちゃかわいいお話。100%善意のかたまりで、小野寺一家や周辺人物やお友達のおばけや妖怪など…みんなの幸せを心から願っているざしきわらしさんなのです。
2013120222020000
”トイレの花子さん”時代はほとんど一人でいたという花子さんはみんなとワイワイ楽しくできるいまがとても大切なのでしょうし、(偶然の産物とはいえ)ざしきわらしにしてくれた小野寺家に対する強い感謝の気持ちを持っていることも頷けます。


花子さんがそんなだからか、登場人物みんなに本当に愛されていることも伝わってきます。
常にぐだぐだでやる気がないダメ人間っぷりを発揮している信くんをはじめ、”トイレの花子さん”時代からの友達でちょっとめんどくさいツンデレなこっくりさんや、幼少の頃からおばけに憧れていたけれど自分自身はおばけになれないと知ってからは霊に対して逆恨みをしているポンコツ除霊師の詩(うた)ちゃん、信くんのやる気のない態度が大好きなちょっと変わった性癖の女子・大久保さんといった人間にも妖怪にも個性的すぎるキャラぞろい。立場も立ち位置もバラバラなキャラクターたちですが、そんな彼らが何故かドタバタしつつも平和につながっているのはひとえに花子さんの人徳、いや神徳のお陰なのではないでしょうか。はっきりいって個性的どころか変態揃いといっても過言ではない(それが哲弘先生イズムでもある)ですが、漫画としてほんわかした雰囲気が残るのは花子さんが常に清く正しくあるからです。誰かと誰かが衝突していたとしても、その横にあわあわしながら解決を祈る花子さんがいるだけでなんだかなごんでしまうのです。不思議。


『マブヤー』の舞台は沖縄でしたがやっぱり哲弘先生の作品舞台は入曽がいいなあ。と実感してしまいました。毎回かなり異なるジャンルの作品を描かれているのに何故か強いイズムを感じさせる作家さんでもありますね。それにしても哲弘先生がチャンピオンの癒し枠を担うことになるとは思っていなかったなあ。