アニメ放送中のためか、12月・1月と単行本連続刊行となる『弱虫ペダル』の31巻です。
作中では箱学追い出し走行会の結果を経て、主人公・小野田坂道ら1年生もいよいよ2年生に進級します。
総北高校が総合優勝というIHの結果を受けて自転車競技部には大量の新入生が訪れ、部を取り巻く環境は大きく変わっていきます。
個性的な新入部員も登場しますが、意外な人間の成長も…。


新入部員の中でもとりわけ目立つのは超がつくほどの自信家・鏑木と比較的物静かな段竹のコンビ。
入部早々2人は新主将である手嶋に自分たちが1年生ウェルカムレースで1位・2位を獲った暁にはインターハイメンバー入り確約、という約束を取り付けます。
この2人がそこまで強気に出るのは単に自信家だからというわけではなく、社会人も含めた強豪チームでレギュラー入りし続けているという確かな実績があるから。
普通にいけば新入生どころか並の高校生すら凌駕するほどの実力者たち。当然のことながら1年生レースの大本命とされる鏑木・段竹コンビに待ったをかけるのは意外なあの男でした。


2年杉元照文、坂道たちの同級生。
「ボクは経験者だから~」が口グセのあの男です。
経験者でありながら初心者の坂道に追い越され、非実力者の代表のような存在だった彼。
しかし昨年のIHをサポートし、間近で同級生たちの活躍を胸に刻み、今年は弟も新入生として入部してくるということで目標も増え内なる炎を静かに燃やしていました。
今泉に密かにアドバイスを求め、誰にも気づかれないうちに毎日毎日練習を重ねてきた杉元は特例としてもう一度、2年生ながら再度1年生レースに参加することを許可されます。
2年生という立場上、負けは許されないというギリギリのところに自分を追い込んでの出場。
「インターハイ総北メンバーの6人目になる」
杉元はそう決意して、人生初のレースでの優勝を獲ることを目標に厳しい状況に己の身を投じます。
2013120713070000


長年のペダル読者であれば新1年生である鏑木・段竹の実力以上に杉元の成長に驚いてしまうというもの。
いままでは坂道らに嫉妬もしないかわりに、自分が追い返して追い抜いてやろうという意気込みも感じられなかったのが杉元という男です。
今まで通り「経験者」という言葉を使いながらもそれは以前とは違い、”言い訳をしない覚悟”のために自分に言い聞かせているように見えてきます
実際、かなりの実力者である鏑木・段竹コンビに1人で果敢に挑む杉元の姿はアツい。
今泉にアドバイスを求めたことで、自分の脚質を知って的確な練習が出来たことも大きいでしょう。杉元自身、実力向上のために、同級生にきちんと頭を下げてまで気持ちをぶつけるという行動にも相当勇気が必要だったと思えます。そしてそれに対して、真摯に応えた今泉もいい。
今までは何処か浮いた存在でしたが、やはり彼も総北の一員なんです。いまは一人で走っていても、一人じゃない。


どうしても今回のレースに関しては杉元に肩入れしすぎた感想になってしまいますな(苦笑)!
連載時にも記事にしたのですが…(※31巻収録分以降の内容にも少し触れていますが、レースの結果は書いてありません)
雑食商店街3373番地:【弱虫ペダル】「名脇役」返上なるか。杉元照文の一年を振り返る
杉元が元々特別好きなキャラだったとかいうわけではないんですが、いままではほんとに脇役だった彼の台頭は『弱虫ペダル』という作品が好きな者として心から嬉しいんです。


31巻のもう一方の見どころとして、先輩となったことで周囲の環境が変わって戸惑う坂道、という部分があります。
昨年の個人総合優勝という華々しい結果によって、新一年生たちには憧れの目で見られることになりますが坂道本人はあまり変わっていない…というか、ちょっと前まで友達もいなかった彼自身には「他人に憧れられる」という発想すらなかったはずです。
相変わらず不器用ながら一年生に歩み寄ろうとする坂道のコントぶりも楽しいですが、そんな彼に対する総北メンバーの眼差しは温かいものです。
特に鳴子くんの
「先輩にはありがとうは言えても同じおかえしができるわけやない
せやから先輩からもろうた恩は 後輩に返すんや」
という一言は素晴らしいです。先輩たちは卒業してしまっても、受け継がれていくものは残っていくんですね。


アニメ等絡みで検索等でたどり着かれた新規さんがいらっしゃるかもしれないのでこちらの記事もぜひどうぞ
雑食商店街3373番地:やっぱり渡辺航先生の描く片想い女子は至高。 『まじもじるるも 放課後の魔法中学生』呪文字の6 お願い るしかちゃん
ペダルとはまた違う渡辺航先生作品の魅力も知ってほしい!


過去エントリ
そして彼は覚醒する 弱虫ペダル 1巻/渡辺航 - 漫画脳
気弱な少年の決意 弱虫ペダル 2巻/渡辺航 - 漫画脳
純粋という名の速度 弱虫ペダル 3巻/渡辺航 - 漫画脳
その時誰もが惹かれることを止められなかった 弱虫ペダル 4巻 - 漫画脳
上へ上へと…登るしかないっショ 『弱虫ペダル』5巻 - 漫画脳
それぞれの想い、それぞれの絆 『弱虫ペダル』6巻 - 漫画脳
全身全霊、5人のゴールスプリント 『弱虫ペダル』7巻 - 漫画脳
漫画脳:繋ぐ力、支え合う力~ほのぼのもあるよ! 『弱虫ペダル』8巻(渡辺航)
漫画脳:インターハイ開幕!疾走感、御堂筋、そして腹筋(アブ)へ… 『弱虫ペダル』9巻(渡辺航)
漫画脳:引き継がれていく熱い魂 『弱虫ペダル』10巻(渡辺航)
漫画脳:チームのために。自分のために。 『弱虫ペダル』11巻(渡辺航)
漫画脳:何者にも干渉を許されない関係がある 『弱虫ペダル』12巻(渡辺航)
漫画脳:強者の信念、三様 『弱虫ペダル』13巻(渡辺航)
漫画脳:彼は理屈を欲しない 『弱虫ペダル』14巻(渡辺航)
漫画脳:心理戦の限界を超えた先に 『弱虫ペダル』15巻(渡辺航)
漫画脳:捨て行くものと信じるもの 『弱虫ペダル』16巻(渡辺航)
漫画脳:”チーム”の形は一つじゃない 『弱虫ペダル』17巻(渡辺航)
漫画脳:過去、決別、純粋な強さ 『弱虫ペダル』18巻/渡辺航
漫画脳:そしてついに出逢った2人 『弱虫ペダル』19巻(渡辺航)
漫画脳:主人公を成長させるのは  『弱虫ペダル』20巻(渡辺航)
漫画脳:一つの絆の境地 『弱虫ペダル』21巻(渡辺航)
漫画脳:総北ジャージは真の「完成形」へ 『弱虫ペダル』22巻(渡辺航)
漫画脳:誰よりド派手に赤く燃え上がれ!総北高校の”赤いマメツブ” 『弱虫ペダル』23巻(渡辺航)
漫画脳:「得体の知れない男」たちの本気の闘い 『弱虫ペダル』24巻
漫画脳:少年たちが成長するとき 『弱虫ペダル』25巻(渡辺航)
漫画脳:頂上決戦に残る者たちの本質 『弱虫ペダル』26巻(渡辺航)
雑食商店街3373番地:インターハイ、決着。そして新たなステージへ。 『弱虫ペダル』27巻
雑食商店街3373番地:凡人主将率いる、新たな時代の幕開け! 『弱虫ペダル』28巻(渡辺航)
雑食商店街3373番地:引き継がれていく魂 『弱虫ペダル』29巻(渡辺航)
雑食商店街3373番地:信念も成長も表現も、正解はひとつじゃない 『弱虫ペダル』30巻(渡辺航)

『弱虫ペダル』・坂道から消えたのはオタク魂ではなくて
漫画脳:描き文字に見る、渡辺航先生イズム
『弱虫ペダル』 小野田坂道と御堂筋翔~最も近くて、最も遠い2人
雑食商店街3373番地:【弱虫ペダル】「名脇役」返上なるか。杉元照文の一年を振り返る

漫画脳:【超速報】舞台「弱虫ペダル」を観に行ってきましたよ!