書店用語に「面陳」という言葉があります。
「面陳」とは、書棚で人の目がつきやすいラインなどに表紙(面)を向けて並べて陳列することです。平台に本を積む「平積み」と同様、新刊や売れ筋の本をここぞとばかりに並べる際に用いられる手法です。
この面陳という手法は本を目立たせることが出来ますが、当然その分棚に納められる本の種類は少なくなります。売れ筋の本だけでなく、自分の目で本を選びたいという本好きの目線ではあまり好ましくない手法かもしれません。では、何故書店は「面陳」をするのかという理由を書店員目線でいくつか挙げてみます。
1.平積みだけでは面積が足りない
出版不況とはいうものの、コミック、文庫、新書、文芸書…と、日々刊行される本の数はおそらく出版業界以外の方々が想像する以上に多いです。
太洋社の発売予定一覧ページによると、今月(2014年1月)に出版されるコミックは851点、文庫は615点。これらすべてがすべての書店に配本されるわけではありませんが、それでもひと月に何百、雑誌等も合わせればおそらく何千という数の新刊本が入荷してくることになります。
対して書店の棚の面積は限られています。平台に新刊の全てを並べることすら困難なことは日常茶飯事。それに加え、ロングセラー本・ドラマ化やアニメ化などのメディアミックス本・メディアで紹介されて話題になっている本・新刊に合わせた既刊本等々…お客様の目につく場所に並べておきたい本は沢山あります。
そこで平積みの他に、「面陳」を作るわけです。平台の面積を拡張出来るわけではない、ならば棚を使う。というわけです。
2.フェアの範囲を明確に出来る
同じ作品・同じ作者の作品・同じテーマの作品などを纏めてフェア展開をするというケース。そういったテーマを決めて集めた本の表紙を並べて陳列すると目もつきやすくなります。
そういったフェア展開自体は平台でも可能ですが、平台の場合「どこからどこまでが同じテーマなのか」という区切りが少々付けづらいのです。
その点、棚の面陳ラインでフェアを作ると一段一段の区切りが明確になる為に「この段(もしくは数段)に並んでいる本は同じテーマで集められている」という事が一目瞭然です。POPや棚板にテープを貼ることでさらにその区切りをはっきりさせることも出来ます。
3.補充の手間・在庫ストック場所の確保
実は結構重要性が高い理由。
たとえば、コミックでいえば今では『進撃の巨人』だとか『黒子のバスケ』だとか、ド定番の『ONE PIECE』だとかの人気タイトルはわざわざ面陳や平積みで目立たせることがなくてもバリバリに売れるでしょう。しかしそういった売れ筋タイトルを面陳で置くのには”1冊売れても店頭に在庫が出ている状態を保てる”という利点があるのです。
通常であれば、棚に出ていない本の在庫はストッカー(棚の下、平台の下にあるひきだし)に仕舞われていることが多いです。1冊ずつしか棚に入っていないけれどストッカーには在庫がある。そんな状態で次にいらしたお客様が「この漫画の○巻がないじゃねえか!」と思って帰ってしまったら大変な損害です。ゆゆしき事態です。かといって、1冊売れた瞬間に店員が即棚補充に行けるかといえばなかなか難しい。その点、面陳にしておけば1冊売れてもまだ店頭には在庫が並んでいて安心です。勿論これは平積みでも良いわけですが、1で挙げた通り新刊だけでも平台が足りないような事情がある場合は面陳にしておくのが一番良いわけです。
また、売れ筋だから多数の在庫を確保しておきたいけれどストッカーに入る容量にも当然限りがあります。その点面陳展開には、在庫の置き場所確保にもなってお客様の目につく場所に置いておけるという利点があるのですね。
というわけで、「面陳」にもさまざまな理由・利点があったりします。
とはいえ面陳ばかりで本の種類が少なくなるのも考え物ですし、そこらのバランスは棚づくりをする店員の采配次第なのでその使い方には力量が試される部分でもあります。わたくしも日々棚の使い方については試行錯誤の日々を送っているのでした。それでは今回はこの辺で。
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