渡辺航先生の傑作コメディ『まじもじるるも』アニメ化!!!!
…あまりにも衝撃の、寝耳に水な出来事すぎて、「ついに」アニメ化などと言うことすら憚られます。
正直、ファンである自分がこんなことを言うのも大変遺憾ではあるのですが、普通であればアニメ化のような展開に発展することはまずありえない認知度、セールス…だと思って…いました。
『弱虫ペダル』アニメのヒットに影響されているのかと思いきや、先生のインタビューを読むと『ペダル』アニメ放送前から話はあったとのこと。
元々『まじもじるるも』『まじもじるるも 魔界編』の2タイトルに渡っての物語を綺麗に纏め上げた後に『まじもじるるも 放課後の魔法中学生』という続篇(内容的にはスピンオフに近いですが)が始まったこと自体、少々不自然な流れだとは感じていたのですが、まさかアニメ化が関係していたとは…。
発表→放送開始時期的に見ても、『弱虫ペダル』アニメのヒットの熱が冷めやらぬうちに…という意図は少なからずあるとは思います。
思い起こせばここまで注目される作品となった『弱虫ペダル』を生み出しつつも、ほぼ同時期に連載されてきた『まじもじるるも』という作品を巡るここまでの道のりは、平坦なものではありませんでした。


『まじもじるるも』という作品はは単発読切として発表されたのが始まりでした。
既に多くの方がご存知とは思いますが、渡辺航先生の漫画家人生にはあまりにも不運と苦難が多く、『るるも』発表当時もあまり状況が恵まれてはいませんでした。
読切版初出時は、「本誌掲載ではなく付録の小冊子掲載だった(しかも掲載されたものを見るまで渡辺先生御自身それを知らなかった)」という事実に落胆されています。
こちらが実際に掲載された小冊子『お笑いチビウス』(現物)です。
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シリウス掲載作家とゲスト作家のギャグ・コメディ作品が収録されています。
こちらが目次。
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ラインナップを見ると結構な豪華執筆陣でしょう?この中に名を連ねていること自体は素晴らしいと思うのですが、如何せん掲載サイズも小さいですし、雑誌のメインではありません。
しかし好評だったということで、『まじもじるるも』の連載化が決定。その後読切版も本誌に再録されました。


『まじもじるるも』連載開始が2007年10月号、単行本第1巻発売は2008年2月22日。そして、週刊少年チャンピオンで『弱虫ペダル』の連載が始まったのがその一日前、2月21日発売の2008年12号でした。
1巻にはゲーマーズ・とらのあなで特典ペーパーもありましたが、よく見ると「どうやら私は同じような話を二度描くとダメみたいです…(笑)」という呟きがあるなど当時の不遇ぶりとそれ故のネガティブぶりが見て取れます。
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しかし『るるも』1巻発売時こそ、法人別特典が用意されていたくらいなので期待値自体は低くはなかったのだと思います。
けれどもそれ以降はご存知の通り『弱虫ペダル』の快進撃が始まり、一方で『まじもじるるも』は知名度が上がらないまま…という複雑な状況が続くことになります。


そして、連載開始も単行本発売も『まじもじるるも』の方が先だったにも関わらず、『弱虫ペダル』人気に便乗させるような商法が目立ち始めます。
単行本同日発売、『弱虫ペダル』『まじもじるるも』両単行本の特典ペーパーを2枚繋げると一つの絵が完成する仕様、『るるも』の帯に坂道が登場…など。
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しかしどちらかというと講談社(シリウス)側が主体となって行われたフェアであったため、『ペダル』ファンにアピールするものとしては弱い印象であったというのが正直なところでした。
(そもそも『ペダル』ファンにアピールするためには『ペダル』の単行本にも『るるも』の情報が載った帯などを付属させるのが筋ではないかと思うのですが、こういったフェアが行われている間『るるも』情報どころか『ペダル』単行本に帯自体が付いてはいません。
最近では多少増えてきましたがそもそも秋田書店の単行本に帯が付くこと自体が稀だったということもあります。
ですが…それにしても秋田書店版単行本の最終巻が未刊だった『制服ぬいだら♪』の新装版の刊行に踏み切ってまでくれた講談社に対してちょっとその仕打ちは冷たすぎない?と当時から腑に落ちない気持ちでしたね…)


『ペダル』人気が過熱していく一方で『るるも』を取りまく環境は良いものとは言えないままではありましたが、無印版は全7巻、その後『魔界編』へ突入し全4巻で完結、トータル11巻で物語は大団円を迎えました。
個人的に『るるも』の知名度が少しでも上がること、評価されることを望んでいたままで口惜しい気持ちが残るのは否めませんでしたが、先生が激務の週刊連載の傍らで休載することなく(厳密に言うと無印最終回と魔界編の間のみひと月のお休みがありました)連載を完走され、かつて襲った不運な打ち切りのような形ではなく素晴らしい形で物語が完結させられたことは素直に嬉しい事でした。


そして間もなく始まったのがるるも達のその後に触れつつも別キャラクターたちを主人公に据えた『まじもじるるも 放課後の魔法中学生』。
冒頭でも書きましたが、何故『まじもじるるも』というタイトルを冠する続篇である必然性があったのか、折角の新連載ならば先生の全くの新作を読みたいという気持ちもあったので、複雑な気持ちでした。
また『魔法中学生』も連載開始から暫く経ったというのに単行本の予定も立っておらず、やきもきとした日々で…。


それが、こんなサプライズに繋がるだなんて。
私もびっくりしましたが、おそらく先生御自身が一番驚かれているのだと思います。『るるも』のセールス、人気、そういったものが伸びていないことは、何よりも先生が気にされていたと想像するに難くありません。
そもそも『るるも』アニメ化を望むコメントは単行本の後書きにもありました。
「なんとか強引にでいいのでアニメ化して下さい。」(魔界編』1巻後書きより)
「なんとか強引に」。このコメントの時点で、おそらく御本人が無理であるという風に思っていらっしゃったのですよ。
『制服ぬいだら♪』連載当時から書かれていたサイトの日記では当時の状況のこともあってかなりネガティブで、後ろ向きな発言が多かった渡辺先生。
それが次第に『ペダル』効果で注目を浴びることが増えてきたせいかどんどん発言内容は無難なものになり、現在のブログでは努めて明るく書かれているように見受けられます。
それでも時々こういった瞬間に見られるネガティブさ。
今回のアニメ化インタビューでも「正直、ドッキリだと思いました(笑)。」と仰られていますが、これはまぎれもない本音なのだと思います。
『ペダル』がどれだけヒットしたとしても、その他の作品がここまで知名度的に引き離されているようでは、本当の意味で渡辺先生のこれまでの苦労が報われているとは言えません。
その苦労が本当に報われるきっかけになる可能性、そういう意味で今回の『るるも』アニメ化決定は喜ばしいことで、先生には心からおめでとうございますと、そう思えます。
『ペダル』アニメに関してはもはや私自身は完全に断絶した状態であり、アニメ公式も真っ直ぐな目で見られなくなっている煩い原作厨ではありますが、『るるも』設定画のるるもとシバキを見たところかなり原作絵に近い雰囲気でほのかに期待を抱いております。
先生の作品が、世間にもっと知られますよう。
そして、直近の願いとしては現在半数近い巻の単行本が出版社在庫なしになっている『るるも』を早いところ増刷してもらえるよう心からお祈りしております。
…いまだにそんな状況なのかよ!(涙)。渡辺航先生ファンの戦いは、まだ始まったばっかりだ!