自転車競技部への入部を決意した坂道たちを待ち受けていた「ウエルカムレース」の開始と共に幕開けの第3巻。週刊ペースで読んでいると長く感じたウエルカムレース編も、こうしてまとめて読むと疾走感があって別段気になりません。
各々がロードレーサーでレースに挑む中、機材到着の遅延の為坂道はママチャリでのスタートを強いられます。どこかぼんやりとしたイメージしかなかった坂道の「自転車競技」像がだんだんはっきりとしてくるポイントにもなるところで、坂道にとっては酷でもあり漫画としては巧い見せ方でもあるところです。ここで坂道はいままで自分の乗ってきた自転車と、競技である自転車との違いを痛いほどに実感することになります。
そして一度失意に落ちそうになったところで手にしたロードレーサー。そこからの坂道の躍進には誰もが目を見張るばかり。「初めてのロードレーサー」という戸惑いをそれまでの絶望と一転しての希望のみで払拭し、「(今泉くんと鳴子くんに)追いつきたい」というただそれだけの混じり気の無いひたむきさで走る姿に見る者も心奪われます。心の奥に持ち続けてきた仲間との繋がりという願望と、自身も気付いていなかった能力のシンクロがひき起こす奇跡的なスピード。
坂道視点で「ママチャリとは違うロードレーサーの速さ」を描きながら周囲の(車で追う主将たちの、或いは追い越される部員たちの)視点で「無茶なまでの坂道の速さ」を描く、その視点の切り替えも実に鮮やかです。
そして理屈抜きに純粋な坂道の走りに自分の感情が乗ってしまうから、何度見ても「一緒に走ろう!!」で泣けてしまうのだと思います。入部一発目のレース(それも前半)でこんなに気持ちが動かされるなんて!
…と、いいところでレース後半は4巻へ。
一方でトップを競い合う今泉君と鳴子君もこの日が初対面にも関わらず良いライバルになっていきそうな予感がひしひしと。自転車においてもそうですが、「あのハイテンションは完全におまえの親セキだろ」「いやー…おったかなー外国人」という何気ない会話の息の合いっぷりなんか妙にほほえましいです。こういう会話の楽しさを見ていると、やっぱり息抜き的な日常話もたまには読みたいなーと思ってしまうのでした。十分楽しいのに贅沢言い過ぎですかね。