4日という期日内に1000kmを走る…という過酷な課題が用意されていた自転車部合宿。その1000km走破を目指す部員たちの姿に様々な人間模様が映し出されています。
先ず冒頭に描かれているのは今泉・鳴子の仲悪コンビ。この2人の徹底したライバル感情はいっそ清々しいほどです。身体の疲れが限界に近づき、ドリンクボトルを落としてしまった今泉と、それを拾って差し出そうとする鳴子。しかし今泉は受け取りません。ここでの彼らのやり取りは、闘うもの同士ならではのコミュニケーション。生半可なやさしさはいらない、そんな2人の関係に痺れます。
一方主人公・坂道は後にライバルとなると思われる山岳と再会。山岳の所属する、去年のインターハイ優勝高・”王者”箱根学園についても徐々に描かれてきています。去年のインターハイで敗北を喫した総北3年生にとってはハコガクは強大な敵でありますが、また坂道個人にとって山岳は、それまで自分が届くわけがないと思っていたインターハイ出場を強く意識するきっかけにもなっています。
そうして1000km走破・そしてインターハイ出場を目指して走る今泉、鳴子、そして坂道とその前に立ちはだかる総北2年生の手嶋純太・青八木一コンビの熾烈な闘いが6巻のメインといってもいいでしょう。もはや、単なる合宿メニューを超えた「レース」がそこには描かれています。
既に中学生時代に出場したレースではトップを獲ってきた今泉・鳴子に、初心者でありながら大きな可能性を秘めた坂道。そしてそんな彼らの遥か先を行く3年生たちの間で謎に包まれていた2年生たちの実力がついに明らかになります。
彼らは、言わば凡人であり、エリートでもなければ天才でもありません。今泉がかつてトップを獲ってきた同じレースによく出ていたものの、どんな努力をしていても遠く及ばず常に群衆の中から表彰台を見ていただけだった、ということを語る手嶋と、それを知る由もなかった今泉の複雑な表情は強い印象を残します。(それに何か感じたのか、話を聞かされている時の今泉は手嶋を追い越すことを一瞬忘れていて、状況を破りにかかったのは鳴子だったりもします)
並大抵のことでは届かないの頂点に近づくために”凡人”の2人がとった策。それはお互いに足りない要素を補い合い、共に協力すること。1人では掴めないものも、2人でなら手が届く。かつて、自分の名前を「いちばんの…いち だ」と説明した青八木が「だったら二(2人)にするか」と手嶋に告げる場面は個人的に、ペダル史上でも屈指の名シーンと思っています。

平凡な人間の努力、という要素は意外にも今までの弱虫ペダルでは意外にも描かれていなかった部分であり、ある意味では益々スポーツ物として王道でいて魅力のある要素がここにきてまた増えたとも言えるのではないでしょうか。
しかし、1年生たちにも動きが見られます。
坂道の真っ直ぐな情熱が今泉・鳴子の心をも揺さぶります。坂道は、それまで友達がいなかった自分を人と繋いでくれる架け橋としても自転車を愛していて、それを通して周囲の人間からぐんぐんと良い影響を吸収し続けています。その想いを飾らずに伝えることで冒頭で孤独に闘うことを選んだはずの2人も突き動かされ、また、自分自身にできることがまだ把握できていない坂道の突き進むべき道を示して返します。

絆の形や表し方は違えど、どちらも根っこに強い信頼がある1年生たちと2年生たち。どちらが主役でもおかしくないほどの想いを胸の内に燃やしていて、どちらも応援したくなるという凄まじさ。キャラクタが増え、深く描かれる度に熱さ・面白さ・感動が増えていくことに、いまだに驚き続けています。