『実は私は』のヒットを受けて週刊少年チャンピオンが世に送り込んできた次なるラブコメがこの『思春鬼のふたり』です。嘘です。嘘かもしれませんが本当かもしれません。
(余談ですが実際のところ、週チャンほのぼのラブコメ枠といえば読者間では『クローバー』が筆頭に挙げられますが最近はラブコメお休み気味なので。)


この『思春鬼のふたり』、確かなラブコメなのですが開始2ページ目で主人公が同級生を殺害し、その現場をヒロインが目撃する。という衝撃的な場面が訪れます。
辻 侘救(たすく)くんは「世界お掃除機構(通称:WCO)」という組織に属する悪人専門の殺し屋。ターゲット(=悪人)以外を手にかけずに済むよう、人目には気を付けていた…はずが同級生の女生徒・白雪厘子さんにその現場を目撃されてしまった、それどころか、白雪さんは辻くんが常日頃から悪人を殺害していることもすべて熟知していた!それまで会話をしたこともなかったはずのクラスメイトに知られすぎてしまっていた辻くんは、組織の「目撃者は殺してもいい」というルールに則り白雪さんをを処分しようとするものの、殺害現場を目撃したことに全く動じないどころか自分に対して純粋すぎる好意を向けてくる彼女にどうにも調子がくるう一方で…。


白雪さんは、幼少の頃自分を虐待していた母親を殺し、解放してくれた少年が辻くんであることに気付いて以来、人知れず彼を追いかけ続けていた(身もフタもない言い方をすると)ストーカー少女。殺人現場を目の当たりにしても「辻くんかっこいい!」な目線でしか見られないイカレっぷり。躊躇する辻くんに対し、寧ろ彼女は「辻くんが殺してくれるなら本望だよ」と本心から言い放ちます。
そんな彼女のことを、辻くんはどうしても「殺せない」。殺してほしいストーカーと、彼女のことだけは殺せない殺人鬼。なんとも歪なふたり。


主人公が(悪人限定とはいえ)殺人鬼で、そういった組織が存在する以上、当然作中は殺人描写がてんこ盛りです。苦手な人はまわれ右な作品であることは間違いありません。しかしそんなスプラッタ上等な物語の中で辻くんと白雪さんの関係が放つ初々しさのひときわ眩しいこと。
辻くんと白雪さんの物語を高校生の恋物語として考えた時に、何が他の作品と違うかというと彼らはふたり揃って求める幸せのハードルが低すぎる、という点があります。

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笑顔で「私1回死んだようなものだから」と話す白雪さんは辻くんへの愛情こそ異常なものですが、不幸な幼少期が影響しているのか自分自身が報われるというビジョンはおそらく殆ど持っていない。
一方の辻くんは、ある意味では白雪さん以上に常識的な面を持っており最初は「殺しをしている」ということを強調して彼女を自分から遠ざけようとしています。それは彼女を殺せないからこそ、殺人鬼である自分とは関わってはいけないという意思表示。逆に言えば辻くん自身、殺人鬼である自分が人並みの幸せを得ることを良しとはしない覚悟の表れでもあったのではないかと思います。
思いやりあっているはずなのに、求めあってはいない。向き合う気持ちすらどこかチグハグだから、血生臭いこの世界の中でふたりは奇跡的なほどに純情なのでしょう。


絶妙なバランスで成り立つ青春ラブコメ。たとえどんなに血みどろでもやっぱり「青春ラブコメ」な作品です。「殺せない」という言葉の意味は、辻くんにとっては「守る」よりも重い。
彼らには幸せが訪れるのか、彼らにとっては何が幸せなのか。扱うテーマと時々やって来るほのぼのラブのミスマッチさ加減が妙にクセになる一作です。