「あたし、遠藤ちあき。普通の女子高生です。
 ――なんてウソ。
 超能力をもっているんです。」
黒髪で、明るくて、ちょいとむちむち体型で素直な良い子。
一見するとなんの変哲もない女子高生、遠藤ちあきのそんな独白ではじまるこの物語。
ちあきが持っている超能力は、「ものを浮かせたり、動かしたりできる」だけ。
その能力を、人助けのためとはいえ皆の目の前で使ってしまったことから、ちあきは前の学校で居場所をなくしてしまった。
心が折れても仕方ないような逆境に立たされながらも、ちあきはくじけません。何故なら、転校先の「私立岡留斗女子高校」には自分と同じ境遇の仲間がいる…”超能力研究同好会”が存在することがわかっていたから…!


しかし、夢見る超能力少女ちあきが希望いっぱいで辿り着いた超能力研究同好会…”のうけん”は、本物の能力者こそ集まってはいるものの、その実態は女子たちのひたすらぐうたらダラダラとした集まりでした。
ちあきが抱いていたイメージは、気高い能力者のあつまり…それとはまさに正反対の実態。
高2でバツイチヤンママのエミ。穏やかだけど時々鋭い一面を見せる柿原。部室では妹キャラになりきるけれどその正体は肉食系30代女子のひなちゃんこと新井先生。そして常に強引な論理で場の空気を丸め込んでしまう高田先輩。
決して彼女たちは悪い人たちではない、しかし自分の理想とはちがう、やっぱりのうけんを辞めよう…と何度も思い詰めるも、部員の少なさをネックとしていたのうけんの面々はちあきを逃がすまいとなんとか誤魔化すのに必死で、ちあきはちあきで素直で良い子でチョロすぎる性格ゆえ、毎回てきとうに言いくるめられてはのうけんの空気になじんでいってしまいます。


さらにちあきを悩ませるのは高田先輩が(女子高に通う身で)実は男である、とあっさり自分にだけカミングアウトしてきた事実。
高田先輩の能力は、相手の頭の中を覗き見たり、逆に自分の意志を相手に伝達して思い込ませてしまう事。それで世間に自分は『女』だと思い込ませて、女子高に通っているのです。
その理由をきっぱりと「女子高生に囲まれて暮らしたかったから」と言い切る高田先輩にドン引きしつつも、眼鏡を取った高田先輩の素顔がイケメンだと知るとその見た目にほだされてまたのうけんを辞められなくなってしまうちあき。ほんとうにチョロい!良い子だけどチョロい!!


夢見がちで、理想を捨てられない。そんなふつうの女子高生なんていくらでもいるけれど、本物の超能力を持っているだけにちあきの意識の高さはちょっと厄介です。
前の学校で追い詰められてしまった経験を持ちながらも、純粋にそのチカラで人を助けることをあきらめられない。本当に良い子。
そんな彼女を9割適当にあしらいながらも、同じ能力者として理解を示すのうけんメンバーたちも本当は、やさしい。
まとまっていないようで、まとまっている彼女たちですが、平穏な日々(?)はいつまでも続きません。


のうけんの部室のロッカーにいる、「ぽぽたん(命名:ちあき)」という謎の生命体。
ぽぽたんは、のうけんの面々にその超能力で自分たちの力になってほしいと常に呼びかけ続けています。
が、のうけんメンバーはガン無視。そこにちあきという純粋な存在が加わったことで、ちょっとずつぽぽたんは態度がデカ…いや、行動が大きくなってきていたのです。
ついに学校や周囲を大きく巻き込んで混乱の渦に巻き込もうというぽぽたんの暴挙に戸惑う面々。
そして何より(語尾に「ポ」とか付いている割に)鋭いぽぽたんの言葉は、超能力を持つがゆえに異端として生きることになっている彼女らの心の奥底の部分をゆさぶり始めます。
それは、女子高生の中で一人男であることを隠しながら堂々と生活する…一見図太い高田先輩の過去をも。
超能力を得たばかりの頃ちあきとは正反対で調子に乗りまくっていた高田先輩は、他人の心を読めるという能力を使いすぎたせいで自分の弱さを知り、尊敬していたはずの父親が薄っぺらい虚栄だけの人間であったことも知り、「男」というものに失望し…何もかもをやり直すために女としてここに辿り着いたのでした。
そんな高田先輩の心の傷は、実は何も癒えていなかった。だからこそ、無闇にチカラを使い、活かそうとしてしまうちあきを止めさせようとしていた…。
そんな事実を知って、高田先輩を…根拠はなく、けれどもとにかく明るくいっしょうけんめいに…励ましたのはほかでもない、ちあきでした。


ラストは少しさびしいけれど、希望もあって、ちょっぴり成長したちあきが心強くも思えるものでした。
わたくし個人的には漫画は綺麗にすっきり完結するものが好きで、1巻完結の作品も大好きですが、『のうけん』はもっとずっと読んでいたい作品だったな、と。
IKKIの休刊がなければ、もっと続いていたのかも。そう思うと淋しいですが、この1冊の『のうけん』は見た目以上に厚みがあって読み応え超満タンです。
強弱つきまくりのペンタッチでやわらかく描かれるキャラはとても魅力的で、ツッコミ不在で全員まくし立てまくりのハイテンションコメディは読んでてとても気持ち良いです。
さらにごくごくたまにイケメン高田先輩とちあきの胸キュン場面があるのもズルい隠し味。
1冊でめちゃくちゃ濃密なぜいたく漫画ですまじで。表紙が気に入ったらまず読んでみてもソンはないと思うのですよ!
試し読みもあるよ!↓ 2014年発の漫画では5本指にヨユウで入るくらいに大好きですオススメです。

 「のうけん」 長田亜弓 | ためし読みはこちら