『弱虫ペダル』38巻が発売されました。
今回は手嶋主将の単独表紙!表紙登場は青八木先輩より早かったものの、単独表紙はまだ無かったんですよねえ…。


既に様々なドラマが生まれつつあるインターハイ1日目。
またしてもチームと離れ、後れを取ってしまった坂道。昨年とは違い、勝者としてのゼッケン「1」を纏うことで周囲にも警戒されるようになってしまい、なかなか簡単には前進できないこの状況で、彼の頭を過ったのは手嶋主将にかつて言われていた言葉でした。
坂道はチームメイトからのオーダーはきっちり確実にこなす芯の強さをもちながらも、一人で危機に立たされるとどうしていいかわからず弱気になってしまうという弱点があります。それを見越してか、進級前に巻島先輩との別れを経験して少しナイーブになっていた坂道に対して手嶋主将は自分の道は自分で決めるということ、そして迷った時は「考える選択を全部考えて悩んで1番最初に思いついたことをやればいい」というメッセージを伝えていたのでした。
これは実にシンプルなようで、本当に大きな意味を持つメッセージで。この言葉が坂道が本来持っている勘の鋭さも引き出すことになります。思えば昨年のIHで「登りで100人抜け」という普通なら無茶としか思えないようなアドバイスを坂道に送ったのも手嶋さんでした。彼はいたってシンプルに、だけどその時その時に坂道に必要な言葉を投げかけているんですよね。


そんな時、手嶋主将は坂道がいない今、総北でただ1人のクライマーとして箱学・真波を捉えようとひた走っていました。凡人で、弱い。一目見ただけの観客にもそれが分かってしまう程に。それでも必死に漕ぎ続ける。手嶋主将自身がここで飛び出したのは、戦略的なものでもあったでしょう。しかしクライマーとして天性のものを持つ真波に、努力だけで凡人が噛り付き、勝負を挑むこの状況はもはやチームのためだけではないのでしょう。男・手嶋純太の意地であり、悲願です。
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チームのためだけにと言えるのは、きっとどこかで強者としての余裕があるか、本当に個人としての勝ちに対する執着がない坂道のようなタイプのどちらかなのだと思います。主将でありながら、このインターハイという華々しい舞台で頂点を争うということだけで、後先を考えずに目の前の真波を追い続ける手嶋さんの姿は少なくとも褒められるものではないのかもしれません。でもその姿がひたすら熱くて泥臭くて、痺れます。最初は真面目に相手をする気持ちのなかった真波も、その真摯さに少しずつ心が動いていっているのがわかります。


自分が凡人であることを理解しつつもただ一度の一番の座を狙う男がいる一方、凡人のまま、影の存在のままで居たいと願い困惑する男も居ました。京都伏見高の3年生、山口です。
御堂筋が事実上のトップであり誰も彼に逆らえない体制の京伏で、その中でもおそらく最も真面目で地味な性格。彼は昨年卒業し引退した石垣元主将から、もしもの時の御堂筋の「良心」となるように思いを託されていました。それを知ってか、知らずとも心に迷いを抱いていることに気付いてはいるのか、御堂筋は総北メンバーを追いかける坂道を止める役として山口を指名します。前に出るのが苦手で、最前に立つのは向いていない。手嶋さんのように「一番を獲りたい」という野心も無く、インターハイのメンバーとして闘う事にも、御堂筋の言うことにも、尊敬するはずの石垣の言葉にも戸惑いを抱き続けている…。そんな人間臭い彼の悩みもまたこの巻で印象的な部分でした。それでも御堂筋のプレッシャーに負けず、高校から始めた自転車競技部を続けているのには何か彼にも思うところがあるのではないかと感じずにはいられませんが…この後また山口の心境に変化が訪れるかどうかも注目していきたいところです。


色々と、こう…作品を取り巻く環境に変動というか激動続きで落ち着きませんが、私はやっぱり渡辺航先生の描かれる漫画が、そして『弱虫ペダル』という漫画作品が大好きとい気持ちだけを大事にして周囲に流されないようにその気持ちを貫いて行こうと思います。