最近、新人作家さんの作品が勢いづいているチャンピオン。その中ではやや目立たないほうではありますが、確実にファンを増やしている(そして、ファンの熱意がすごい)作品がこの『スメラギドレッサーズ』です。わたくし個人的にいまもっともチャンピオンで楽しみにしている作品でもあります。最初から期待して楽しみにしていたかというと実はその逆で、失礼ながら連載開始当初はちょっとキツいな…としか思っていませんでした(ごめんなさい)。しかし、チャンピオンを何年か読んでいてここまで自分の中での評価が完全にひっくり返った作品というのはいままでになかったので…それだけにとにかくいまは応援したい作品となっています。


高校2年生の三ノ宮かなでは風紀委員長を勤めるマジメな女の子。風紀を取り締まるために厳しく他生徒に当たる毎日を送っているためクラスメイトからは煙たがられて、幼稚園の頃たったひとりの友達とはなればなれになってからずっとひとりぼっちのまま。そんなかなでの前に現れたのが喋る大福…ではなく、”世界てらす子”と名乗る謎生物。「施設」から逃げ出してきたてらす子は初めて外の世界を知って「友達」という概念を知ったと語り、真面目で誰かのために何かできるかなでと「友達」になりたいといいます。そんなてらす子の姿に幼馴染との思い出を重ねあわせたかなではてらす子と友達になろうと決意しますが…。
実はてらす子を生み出したのは「ツクヨミ」という悪の秘密結社で、その追手はかなで達の高校までもう迫ってきていました。いま出逢ったばかりとはいえ、大切な「友達」を守るために立ちふさがるかなで。しかし一介の女子高生であるかなでには戦うすべなどない…はずでしたが、てらす子が差し出したあるアイテムを手にかなでは「変身」して戦うことに!ただしそれは…「着替える」という手段で。
てらす子がツクヨミから持ち出した「ドレス」はどんな攻撃も受け付けないドレスルームの中で「着替える」ことで変身し強力な攻撃ができるようになるものの、20秒の制限時間内に着替え終わらなければドレスルームが開放されてオーバーした時間の分攻撃力も落ちてしまうというもの。そしてもちろん、ドレスルームが開いてしまったら着替え途中の姿が周囲に見られてしまう…。悪の秘密結社という得体の知れない存在との戦いと、周囲からの好奇と欲望の視線との戦い。いきなり2つの大きな敵に立ち向かわなければならなくなったかなで。決して進んでその戦いに赴くつもりはなくとも…出逢ったばかりの「友達」のために、いやいやながらドレスチェンジをすることになってしまいます。


というのが大体のあらすじです。
まず何故連載開始当初はこの作品に対しての評価が低かったのかといいますと、ひとつはかなでに対してのモブ(=学校の生徒たち)の視線や態度がゲスすぎたこと。これはのち、1巻のラストへの展開に向けたかなでへの試練の内でもあったのですが…それをわからずに読んでいるうちはどういう意図で描かれているのかわからず、不安な部分が大きかったのです。その分、読み続けた先には不安や苛立ちを吹き飛ばすほどのカタルシスが待っていました。
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1巻のラスト第9話に収録されているその場面は、それまで単に風紀委員長として周囲から疎まれるほどのクソ真面目さを発揮するだけだったかなでが誰かを守るために本当の意味で「正しさ」を貫く場面でもあり。一気にこの回で作品としての信頼とともにヒロインへの”応援したい”という気持ちが湧き上がっていきました。別冊少年チャンピオンに掲載された松本先生のインタビュー記事によるとここまでが1巻収録分であることは計算されていたようなので、その構成力の巧みさにも改めて驚かされました。


そしてもうひとつ、連載開始直後は「お色気コメディ」路線が押されていたのにもかかわらず、あまり美少女路線むけの絵柄ではないことが低評価の一因でした。先述のとおりモブたちが不快ならば、逆にお色気方面のみでも吹っ切れていればそれはそれで需要があっただろうに、という気持ちもあり。ですが、1巻のラストを経てその後の連載を追っていくにつれ…『スメラギドレッサーズ』は「お色気コメディ」では決してなく…とびきりカッコいい「バトルヒロインもの」であることを実感していきます。
「着替え」はあくまでお色気を描くためのものではなく戦うヒロインへの試練として与えられたもので、普通の女の子にとっては苦痛でしかないはずのその試練を”何のために乗り越えるか””乗り越えた先に何があるか”が作品のキモであることがわかってきます。そう考えてから見返してみると、第一話の時からカラーページの使い方が実に陰影のつけ方がハッキリとしたスタイリッシュなものであったということが思い出されます。「お色気コメディ」を押していきたいのであれば、カラーページを割り振られたときに肌色メインの露出度の高いイラストになったでしょうに。最初から松本先生の描きたいもの、通したい信念はおそらく決まっていたのでしょう。それに気付けずに「お色気向きの絵ではない」と思ってしまっていたことをいまは反省しています。
とはいえ失礼ながら決して上手い絵というわけではないわけですが…連載が進むごとにどんどん絵柄も、漫画としての見せ方も良くなっていっているというのも事実です。カラーページのスタイリッシュで陰影のハッキリとした格好良さに作中の絵も近づいていっているといった印象を受けます。


こうして、当初抱いていた不安や疑問点を連載の進行とともにひっくり返していってくれたこの作品にどんどん夢中になっていってしまいました。計算された構成で惹きつけられ、計算外の進化からも目が離せない。1話や2話試し読みしただけでは、おそらくなかなかとっつきにくい作品であることは間違いありません…が、まず1巻。そして2巻…と読んでいけば続きがどんどん気になってしまう…はず。2巻では新たなスメラギドレッサーとして戦うことになる新キャラも登場し、今後のキーポイントとなる場面もあります…!
目の前にいる大切な人を守るためだけに”恥じらい”という壁を乗り越え、強大な敵に立ち向かう熱いバトルヒロインの物語。週チャン誌上で毎週感動と驚きを更新し続けています。完全に魅了されるまでには時間がかかるかもしれないけど、それからの期待は決して裏切らない。そんな漫画、『スメラギドレッサーズ』を私は心の底から応援しています。


秋田書店公式の試し読みページ: http://arc.akitashoten.co.jp/comics/sumeragi/1