今週の「とんねるずのみなさんのおかげでした」の”放送888回記念で衝撃映像連発大爆笑SP”と銘打たれた特集で、ほんの一瞬だけ映った「野猿」というグループを皆さまは覚えていらっしゃったでしょうか。もしくは、ご存知でしょうか。
「とんねるずのみなさんのおかげでした」の番組の企画で生まれた野猿というグループは、とんねるずの2人以外は全員番組のスタッフ。そんなまったくの素人のおじさんたちが、歌い、踊り、笑って、泣いた3年ちょっと。それはそれは、とてもかけがえがなく、そして壮絶な時間でした。


野猿のメンバーは11人。(結成時は13人でしたが、本格的な活動はほぼ11人で行われています)
素人離れした奇跡の歌声をもつ、すきっ歯がチャームポイントのアクリル装飾・平山晃哉さん。
アイドルのような愛くるしさを持ちながらもYAZAWAファンというロックな一面をもつ衣装の神波憲人さん。
マイペースで独特の空気感をもち、弁当をなんなく2つ食べる大道具・成井一浩さん。
ダンスチームのエース格、キャバクラ大好きな特殊効果の飯塚生臣さん。
「パスポートって何?」などの名言により公式ニックネームが”バカ”とされてしまった最年少の大道具・大原隆さん。
バツイチ子持ちで扇風機をベロで止めるコワモテのおじさんと思いきやプリンが大好物の車輌ドライバー・星野教昭さん。
いちどメンバーから外されるも、こっそりとした愉快さで確実な存在感を漂わせる持ち道具の網野高久さん。
ダンスは不得手なもののコント慣れの度胸で周囲を楽しませることに長けたお酒大好きカメラクレーンの高久誠司さん。
圧倒的なリズム感のなさでひとりズンドコってしまったり、イジられ役として定着気味のいまでいうゆるきゃら的存在・スチールカメラの半田一道さん。
そして、とんねるずの石橋さんと木梨さん。
とんねるずのお二人と、平山さんと神波さんがボーカルチーム。他のメンバーがバックダンサーというのが基本のメンバー構成です。


はじめは「避難訓練」とさえ言われたたどたどしいダンスも回数を重ねるごとに成長していき、一度きりかと思われたシングルリリースも2度3度と続き、歌番組出演、アルバムリリース、コンサート、そして紅白出場…とその活動はどんどん広がって行きました。そう、それはまるで「企画モノ」の枠を超えたように見えたかもしれません。
しかし、あくまで野猿は「とんねるずのみなさんのおかげでした」の番組内の企画ユニット。ただ歌って踊って成長していくだけ、そんな状態が許される存在ではありませんでした。グループは、幾度となくメンバー解任や解散の危機に見舞われ続けました。
それを笑いながら、少しハラハラしながら見守るのが普通のお茶の間の「テレビとしての」楽しみ方だったのかもしれません。
でも、私は…私だけではない、数多くの人が。そんな「企画」ユニットに「本気で」魅了されてしまっていたのです。


揃いも揃った濃すぎるキャラクター、そして大人が見せる本気の一生懸命さ。秋元康・後藤次利の名コンビによる「大人の男にしか歌えない」世界を表現した楽曲たちの素晴らしさ。芸能人だとか、素人だとか。そんなことは些末な問題でしか無くて。
握手会があれば、飛んで行き。コンサートがあれば駆けつける。
それは、ただ野猿が好きだから…だけでは説明できない「焦燥感」に常に我々が追われていたから、でもあります。
いまを逃したら、次はないかもしれない。この曲が、この機会が彼らの姿を見られる最後なのかもしれない…。常につきまとう不安。そして、本業と活動を両立させる彼らを本当ならば早く解放させてあげるべきなのではないかという矛盾した思い。彼らを追いかけることは本当に楽しかったけど、それと同様にとにかく必死でした。苦しかった、と言っても過言ではありません。
でも、それ故に決して忘れられません。


気が付けば今年の5月13日で野猿の「完全撤収」…いわゆる「解散コンサート」から15周年を迎えました。つい先日完全撤収15周年を記念して当時の仲間たちと『完全撤収コンサート』の映像を振り返る会を開きました。こうしてきちんとした形で当時の映像と向き合うことはかなり久し振りだったのですが…自分でもちょっと予想ができなかったくらいにまたその熱気にあてられてしまって。15年という月日が経って尚、また彼らに魅了されてしまいました。
完全撤収コンサートは野猿最後の日であり、約3年間の活動の中で最高の日でもあったと今でも思っています。
燃え尽きる前の最後の煌めきが美しい…ということもありますが、メンバーとファンの間に生まれた「信頼感」がいちばん色濃く出た日だったということを強く感じました。
そこには練習したダンスや歌の成果を見せた以上のものがあったのです。スタッフの、素人のおじさんたちであるはずの彼らのアドリブやパフォーマンスが会場を喜ばせ、それにファンが熱狂で応えているということのすさまじさ。
活動の中で、彼らは何によって私たちが楽しめるかを完全にわかっていたということなんですよね。勿論自分たちが楽しんだ上で。これは決して簡単なことじゃない。絶大な信頼がそこにはあった、と思っています。
この完全撤収コンサートの挨拶で、私が最も敬愛するメンバーである神波さんが言った「みんなの心にいつでも野猿はいるよ」という言葉は私にとっては赦しでもあり、呪縛でもありました。
ああ、想い続けていいんだと。その撤収の瞬間からただの”一般人”へと戻っていく彼らの事をずっと好きでいいんだ…と。そして、そんなことを言われたらますます忘れられるわけがない。そんな感覚が久し振りに強烈に蘇ってきました。15年経ってこれだもの…。


苦しいと思ったことだっていっぱいあったけれど、「野猿」が存在した時間を共に過ごせたことは本当に大事な”思い出”です。残った楽曲という財産は大人になってから聴くとまた沁みるものが多くて、改めて見えてくることもたくさんあります。こうして少しでもテレビで流れたことで、誰かがまた野猿を思い出してくれたり、少し興味を持ってくれていたら嬉しいなとおこがましくも思ったりしながら。
「本気は伝染する」というのはどこかで聞いた言葉ですが、彼らのあの時の本気は確実に私たちに伝染していて、それはいつになっても消えてなくなることはありません。