週刊少年チャンピオンで集中連載されていた『永遠の一手-2030年、コンピューター将棋に挑む-』が最終回を迎えました。
この作品は現千葉大学教授の伊藤智義先生が原作、チャンピオン読者にはお馴染みの松島幸太朗先生が作画の近未来の将棋界を描くシミュレーションコミック。
第一話は現在も秋田書店公式サイトにて試し読みが可能です。



物語のはじまりは2020年。
現役の名人・羽内将史と将棋ソフトの日本一である”彗星”の対局から幕を開けます。
神の領域とまで呼ばれた羽内名人の勝利を誰もが…”彗星”のメインプログラマでさえも信じていたこの対局が迎えた衝撃の結果。ここから将棋界は大きく変わって行くことになります。


コンピューターに敗れた羽内名人は表舞台から姿を消し、将棋界はコンピューター主導のものへと変化していきました。
「人間はコンピューターより弱い」というイメージを払拭できずに将棋の人気は急落、将棋界は崩壊寸前まで追い込まれます。そこで将棋連盟が打ち出した新しい案、それはプロ棋士と支援する将棋ソフトが契約を結び、チーム戦として新たな名人戦を作り上げる事でした。
コンピューターの支援によって力を伸ばすプロ棋士たちの中、ただ一人無所属を貫いて戦う男がいました。彼の名は増山一郎。彼はあるきっかけでコンピューター将棋に拒否反応を示すようになってしまい、変化していく将棋界の中たった一人努力のみで戦い抜いていきます。苦戦続きの時期を越えてからは圧倒的な強さを見せ始め、コンピューター支援を受けた棋士を次々に破り名人の座に就き連覇を重ね、いよいよ永世名人をかけて2030年大会に挑むことになります。
一方コンピューター界にも大きな動きが。名人を打ち倒した後、目立つことがなかった”彗星”のメインプログラマに抜擢されたのは天才女子中学生の翔子。彼女はなんと、名人・一郎の一人娘。父親を倒したいという天才反抗期ど真ん中少女とコンピューターアレルギーの名人。将棋界を巻き込んだ壮絶な親子喧嘩に発展していきます。
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しかし天才少女が作る新たなソフト”彗星2030”はその強さゆえに並の棋士には力をものにすることができず、次々と潰れていってしまうという大きな問題が発生。このソフトの力を使いこなすには、相当に強い棋士であることが絶対条件。現名人打倒のために最強のソフトを使いこなすことができる実力者…。その条件を兼ね備えた人間は一人だけ。10年前、コンピューターに敗北を喫して将棋界から姿を消していた羽内元名人、その人です。彗星社は羽内元名人の行方を掴み、元名人は自分をかつて将棋界から追いやった”彗星”と契約を結んで復帰することを決意します。


名人位を賭けて戦うことになった一郎と羽内、徐々に2人の間にある因縁も明かされ始め、対局の描写からは誌面から迸るような熱を感じます。神とまで称された元名人と、史上最強の存在と名人位を賭けて勝負する喜びに打ち震える現名人。そこに描かれるのは一人の男と男の意地。ただ一人と一人の将棋指しの姿。
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「コンピューター将棋に挑む」という副題が不思議に思えてくるほど、それは人間同士の熱い戦いで。けれども私には次第に、「コンピューター将棋に挑む」のは対戦相手としてではなく、将棋界の主役となるものとしてではないか…と思えてきました。
この作品では一度は名人がコンピューターに敗れ、将棋界が歪んでいくようすが描かれています。将棋界を崩壊させるきっかけを作ってしまった人間たちが再建を目指し、また新たな歴史を作りだす。将棋を愛しているという意味では、プロ棋士もプログラマーも同じでした。将棋自体に明るくなくとも、何かを愛するがゆえの(それぞれ違った立場からの)その世界の関わり方というものにはどこか共感、納得できる部分があると思います。


また、最終的に戦う2人の年齢を考えるならば青年誌掲載であってもおかしくない主人公の設定だと思いますが、挫折や苦悩を描きながらもドロドロとはせず、まさに少年誌としての「熱さ」を維持したまま戦う姿を見ているとこの作品が週刊少年チャンピオンに掲載された事はまちがいでないと確信できます。
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作中にはわずかながら少年時代の2人が描かれていますが、将棋を愛し強くなろうと(強くあろうと)するその純粋さは、ある意味では少年時代のままなのかも…。
全12話という短期間だからこそのスピード感と濃縮された熱がこれでもかというほど感じられる素晴らしい作品。最後は大団円としか言いようがありませんでした。
是非ともお勧めしたい作品ではあるのですが、現在のところ単行本の予定はなし…。ただ、今秋に特別編の掲載があるとのことなので、それを含めて単行本化してくれることを切に願います。いちおう電子版チャンピオンを購入すれば全話読むことは可能なんですが…これからお薦めするにはハードルが高すぎますよね。単行本化おまちしております秋田書店さま。


気持ちが盛り上がった勢いで書き殴りになってしまったので、粗い文になってしまいましたがご容赦を…。
いろいろと真面目な話すっとばすと羽内元名人の色気がやばいとか翔子ちゃん可愛すぎてやばいとかしか言えなくなるんですが(※結局言ってる)、それも人間の魅力がたっぷり描かれた作品であるがゆえだと…!松島先生の画、以前よりも益々洗練されてすさまじいほどでした。まったくぜいたくな全12話を堪能させていただいたものです。


※1/6追記
単行本出ました!!上下巻で絶賛発売中!気になってくれた方はぜひ・・ぜひ~!!

※1/12追記
単行本出たので考察っぽい記事を書きました。こちらもよろしくです。
 『永遠の一手-2030年、コンピューター将棋に挑む-』 台詞修正部分とその周辺から考える作品のメインテーマ