ここ最近の週チャンの中でも、個人的かなりのお気に入りです。
メチャクチャで笑えて、謎が深くて、説明するのがちょっと難しいまんが。


日本のだいたい中央に位置する戌亥山市。
かつてはこの国を裏から支配していた”暦壬戌”なる人物が住んでいたこの町の巨大な屋敷に、いまはひとりで暮らす16代目当主の姿が。
まだあどけなさすら残る少年。彼の名前は、暦甲子太郎。
偉大であり、大悪党でもある祖父・壬戌亡き後は使用人たちも屋敷から姿を消し、ひとり残された彼はその悪名高さから命を狙われる日々。
そんな甲子太郎少年の前に突如現れたサイズもスケールも何もかもが大きく、むちゃくちゃな戦闘力の高さを誇る謎の金髪縦ロールの女性。
その名は「蠅声なずな」。生前の壬戌から頼みを受けて暦家にやってきたという彼女は、唐突に自分は甲子太郎を育てる乳母兼家庭教師<ナーサリーガヴァネス>であると名乗り出ますが…。


基本的にはこの謎の女性・なずなさんがメチャクチャやってくれるドタバタコメディです。
素性も狙いも謎、謎だらけで謎しかない人間が突然私があなたを育てます!と高らかに宣言したら、怪しさの度合いは天井知らずです。
ましてや、日々有象無象から命を狙われている少年からすれば、なおさら。
それは読者にとってもおんなじです。謎しかなくて、狙いがわからない。
ただ、不思議となずなさんには”嘘がない”ということだけは絶対的に伝わってくるんです。
それは何故か、というと圧倒的になずなさんがメチャクチャだからです。
強さもメチャクチャならば、理屈もメチャクチャです。
強く育てる、という大義名分のもとに甲子太郎様をがんじがらめにして逆さ吊り。
日々見舞われるトラブルからも臨機応変になんとなくそれっぽい教訓を導き出し、最終的には勢いあまって甲子太郎様に次々襲い掛かるヤカラどもを暴力で蹴散らす潔さ。
なずなさんにもし裏があるなら、きっともっと甲子太郎様を大事に扱うし、もっと計算高く行動する。
いちばん謎が深いのに行動原理がいちばんハッキリしてるんです。
この、「なずなさんが(善し悪しは別にして)信頼できる」というぶっとい柱がしっかりしているので、細かいことはひとまず置いておいて笑っていても大丈夫そうだなーと思える。みたいなところがあります。


対する甲子太郎様。さすがひとりで度重なる危機を躱して生きてきただけあり、時にはなずなさんの予想も超える心意気を見せるときもあります。
メチャクチャでハチャメチャななずなさんに淡々とツッコミを入れ、常に他人には何の期待も寄せないといった面持ち。
…しかし、突然訪れてきたなずなさんに「寄ってくるやつほど信用できない!僕は一人で生きる!」と宣言した後に見せた寂しげな表情こそが本当の彼のすべてでしょう。
そんな子どもらしい寂しさをおそらくなずなさんは見抜いていて、無理やりなやり方で埋めにかかってきます。
だからこそそんな日々が始まって時折見せる甲子太郎様のほのかな油断は非常にかわいらしい。
なずなさんが来る以前の彼の孤独や、背負わされてきた業こそ想像することしかできませんが、きっとこんな表情をすることも、見せる相手も長いあいだ、彼にはいなかったのでしょう。


軸となるなずなさんと甲子太郎様のもとに、次から次へとチンピラから新たな従者までさまざまな人がやってきます。
誰も彼もがクセのある人ばかりで、当然良い人間ばかりではないんですけれども。
もしかしたらひとりぼっちだった甲子太郎様のまわりに少しずつ人が集まり、いまは警戒心と人に対する不信感でがんじがらめになった彼の心がほどけていくお話なのかもしれない。
メチャクチャで笑えて、謎が深いけど、でもどこか、確かに血が通った温かさが感じられるまんが。わたしはそう思っています。


第一話は試し読みできますので、興味を持たれましたらぜひ!