※この記事は、発売中の単行本1巻とウェブ上で公開中の9~11話の内容を踏まえた内容となっております。
(未読の方にとってはネタバレとなっていると思うのでご注意ください)


表紙が放つ強力な色気に射貫かれて手に取った作品ですが、想像以上のハマり方をしてしまったのでここに感想を書くことで気持ちを発散させる試みです。
発散する場がここでいいか悩んだのですがここしかないので…。ふだんのこのブログとは毛色が若干違うかもしれません。すみません。



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仕事もでき、部下からも慕われるサラリーマン、小夜稔。40歳、童貞。
真面目に生きてきた彼は、ある日とある「女」に殺されてしまった…はずが、実際には生きていて、そのかわりに体質が変異してしまいます。
異様に鋭くなった牙、そして人間を見ると衝動的に血が吸いたくなってしまう。そう、まるで吸血鬼のように。
しかし真面目で真っ当な人格の彼には、自分の欲を満たすために人間の血を吸うことなどとてもできない。
空腹と良心のはざまで葛藤し続ける小夜。
そんなある夜、彼の前に職場の後輩である青年、山寺が姿を現します。
突如彼のペースに巻き込まれて振り回された挙句、にこやかながら棘のある言葉を吐かれた小夜は苦悩の末、
”この男の血なら貰っても罪悪感無いかも”と魔が差し、初めて人間の血を吸血してしまいます。
しかし隙があるように見えたのは小夜が吸血鬼になっていることを知っていた山寺の策で、小夜は完全に弱みを握られた形になってしまい…。

山寺の望みは、自分も吸血鬼になること。
しかし、小夜に吸血されても山寺は人間のまま。
そこで山寺は小夜を吸血鬼にした「女」を探すため、小夜は山寺に血を吸わせてもらうため…という大義名分のもと、歪な協力関係を結ぶことになってしまいます。


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以上が簡単なあらすじです。
一見にこやかでよく出来た爽やかな後輩かと思いきや山寺の本性は相当なサイコパス野郎。
小夜さんは屈辱にまみれながらも、握られた弱みと彼からなら吸血を許されるという状況から他の選択肢もなく彼の言いなりになる日々。
設定がね、天才的にね・・・・・ドエロいです。ほんとに。感謝しかない。
「夜分に吸血失礼します。」というタイトルは、作中に出てくる台詞ではありませんが小夜さんの真面目で律儀な人格を表した好タイトルだと思います。
40歳童貞の小夜さんの心の中には長年の想い人がいて、おそらく彼女が小夜さんのことを吸血鬼にした張本人…であろうことが示唆されています。
山寺は生い立ちなどの関係から人格が歪んでしまったことは明らかなのですが、何故彼自身が”吸血鬼”にそこまで固執するかはいまいちわからない部分もあり、
ただ死すらもおそれていない彼はたびたび危険な行動に出てしまいます。
でも小夜さんにとっては彼がどんなに憎らしくてもひとりの大切な部下であることはかわりなく、ときに危うい彼を命を賭してまで守ってしまう。
それが小夜さんの人間性で、いくら”バケモノ”になろうともゆるがない彼自身の善性。
人間のからだをしたバケモノと、バケモノのからだをした人間。
似た者同士のようで、まったく遠いふたり。


そんなゆがんだふたりの日々に訪れた変化。
それは少女吸血鬼・美礼との出逢い。
そのまっすぐな優しさで美礼に惚れ込まれてしまった小夜さんは彼女に振り回される時間が多くなってしまいます。
一方で自分につかまらなくなった小夜さんに対して、苛立つ山寺。
ある時山寺はついに美礼と対峙し吸血鬼になる方法を聞き出そうとしたところ、死ねば吸血鬼として蘇らせると答えられ、目の前にやってきた電車の前に…


山寺にとっては。
優しく真っ当な小夜さんは誰のことだって助けるようなひとで。
たとえ命懸けで救われたとしても、特別ではない。彼にとっては。どこかそんな認識で。
それに他人の命は守ろうとするくせに、人の血を吸う、人を傷つけるからって自分は死んだほうがといい…と思うようなバカみたいにお人好しな小夜さんのことが気に入らない。理解できない。
だから…自分を突き飛ばして電車に轢かれた小夜さんが、本物の”バケモノ”となって自分に襲い掛かってくることで、初めて満たされたんだと思うんです。
小夜さんが本能だけに支配され、貪るように自分の血を吸う。それこそが、命を救われる以上に”自分でなければいけない理由”だから。本当に”求められて”いるから。
空虚みたいな山寺の心が一気に満たされていくんです。本当にすごいです、この吸血の場面は。


…それでも、小夜さんにとっては。彼が我に返ったときには。
山寺の「生まれてきてよかったなぁ」という言葉も届くことはなく、ただ”部下の命を奪いかけた”という残酷な現実だけが残る。
そもそも、ただまっすぐ生きてきた彼に、山寺のそんな気持ちが理解できるわけもなくて。
突然言いなりにさせれるわ、人の死すら厭わないようなサイコ野郎だわ。
そんな彼のことが理解できないし許せない、それでも救いたかったはずの命。それを自ら奪いかけたことで、なおさら心は彼に囚われる。
彼からも、誰からも離れようとする。寄りそう美礼に感謝はしながらも、心はすり減り、血も吸えず、ただただ消耗していく。そこにもはや人間としての”死”という概念はなくとも。心だけは、人間のまま。
「山寺からなら吸血できる」という言い訳のような理由から、ずいぶん遠くへ。


…だけど、ふたりは、また。
現在の物語はそんなところまでです。
このお話がいわゆるBLにあたるかと問われると、正直わかりません。表紙を見たときに期待したのはBLそのものでしたが…ふたりをとりまく女性キャラたちも魅力的だし(個人的に美礼ちゃんは本当にたまらんのですが長くなるのでそれはもう別の機会に(?))。
ただ、感情とかそれ以上に、お互いがお互いでなければならない理由だけが深まっていって、沈んで、溺れていくような。
お互いを求めあう関係性としてひとつの究極の形。
ほんとに何もかもがたまりません。どうなるんだろうこれから。こんなに心が囚われる作品に出逢えたことに感謝だし、とにかくこのパワーのある表紙に惹かれてよかった…!
いつも以上にとっちらかってお見苦しい文章で申し訳ないです。
もし未読の方で気になったかたが居たら読んでいただけたらうれしい。
でもこの拙い文以上に表紙にちょっとでも惹かれたらまず読んでほしい!!