乱破-ヤンキー忍風帖- 2 (少年チャンピオン・コミックス)
乱破-ヤンキー忍風帖- 2 (少年チャンピオン・コミックス)

『乱破-ヤンキー忍風帖-』橋本エイジ
(1・2巻同時発売)

チャンピオン読者は、「チャンピオンらしさ」を求めながら読んでいる(人が多い)と思う。
読者歴17年の自分はチャンピオンの歴史からすればまだまだ若輩で、いまだに「チャンピオンらしさ」というものに対してのイメージもぼんやりしていて、説明がつかないものと思いながらもそれを追い求めている部分があります。
そんな自分が感じた、「チャンピオンらしさ」が降って湧いてきたような感覚。それがこの『乱破-ヤンキー忍風帖-』との出逢いでした。



圧倒的な強さを誇る戦闘狂ヤンキー・風間煙人(かざまえんど)はひょんなことから知り合った蜂須賀一矢(はちすかいちや)とのタイマン勝負の際、その強さと能力から”忍者”であると見抜かれます。しかし煙人自身には自分が忍者だという自覚が皆無。一矢はデタラメな強さの煙人の力を利用して己の家の名を上げようと、『忍者⇒ヤンキー』と置き換えて説明することで、国内の忍者が集う「私立刀心高等学校」へ転入するよう誘い出しますが…。


ざっくりとした第一話の流れは以上です。中身は血統忍術=異能持ちによる喧嘩、喧嘩のオンパレード。
まず何より最初に絵が良いです!シンプルに描線が好きすぎる。さすがキャリアのある作家さんが描くバトル、アクションシーンは説得力が違う。近年のチャンピオンは若手作家さんや初連載の作家さんが増えていて、そのフレッシュさは喜ばしいものの個人的にはいくつか作品を描きあげてきた実力派作家さんの安定感を欲しつつもあったので…橋本エイジ先生の参戦が純粋に頼もしく思えています。


忍者漫画としての本筋では徳川家裏将軍・徳川國定(またの名をクニコ様、きっぷのいいギャル将軍)の護衛にあたる御庭番の座をかけた徳川家御庭番忍者撰抜…通称「忍撰」というものがあり、多くの忍者達が御庭番の座を狙っているのが現在の状況。
忍者業界(?)には伊賀≧甲賀>>>無所属のパワーバランスがあるものの、そのバランスを崩しかねないのが煙人の存在。何故ならば彼の正体は、かつてその強さ故に表舞台を追われたという家系…「風魔一族」の忍者なのです。ワイルドカード的存在である煙人を巡って刀心高校の忍者たちの争いは激化していく…。
しかし。何しろ煙人自身に自分が忍者であるという自覚がない。そのため己を中心に飛び交う思惑などお構いなし。ただ強いヤツと戦れればそれでいい―…。と実に単純明快です。
物語の土台にシリアスな因縁や欲望が渦巻いていたとしても、当の主人公本人が(現時点では)ただのバトルジャンキーなのです。そういった意味では二面性がある物語かもしれません。周囲が複雑化していっても本人はいたって単純なままなんですもの。


また、単に風間煙人という主人公が実に真っすぐで気持ちの良いヤツといいますか。一般人(パンピー)には決して手を上げないという信念を持ち、人を属性や見た目では判断せず、一般人が持つ強さ(腕っぷしではなく、心の)もリスペクトする。
実はそういった性格自体が多くの忍者とは真逆かもしれません。どうしても忍者側のキャラクターは自分が選ばれし者であるというプライドを持っているので。
「忍者」が家系、血筋によるもので選ばれし者しかなれないものだというなら、煙人にとっての「ヤンキー」は生き様、心意気のようなものなのかもしれない。
(煙人自身も自覚なきまま家系忍術こそ使ってはいますが)単なる喧嘩好きの戦闘狂、それでいて分け隔てない性格のまま忍者たちのプライドと意地が交差する戦いの世界をひっかきまわしていってくれるなら…とこれからの展開にも期待しかありません。


「チャンピオンらしさ」を心のどこかで求めているチャンピオン読者、または元読者の多くは理想的に楽しかった「あの頃のチャンピオン」というものが記憶の中にあるのではないかなと思っていて、その時期も人によってさまざまではあると思うのですが、心に「あの頃のチャンピオン」がある人のあの頃感に合致する率が高いのではないか…と思えるのがこの『乱破』。
橋本エイジ先生ご自身が週刊少年チャンピオンのことを「小学生のころから憧れていた」と発言されていたこともあり、チョロ読者のわたくしとしてはいい作家さんだ…とチョロくも思ってしまったわけですが、ふんだんに感じられる「あの頃のチャンピオン」感にも納得がいくというものです。
なので今チャンピオンから離れている―…という元チャンピオン読者さんにも届いたらいいななどと勝手ながら思ってもいるのですが、もちろんチャンピオン以外の世界にもどんどん広がってほしい一作です。



チャンピオンクロスで3話まで読めます!



なんかかっこいい動画も作られてますよ!ぜひぜひ!